「お、来た来た!」
ミロが下から近づいてくる小宇宙を感じ、心を躍らせる。アイオリアもそれを感じ取ったのか、黄金聖衣をまとう。
「もう、さっさとしろよ。置いてっちまうぞ?」
「わかってる。そんなに慌てなくてもいいだろ?」
苦笑しながらも、実際アイオリアもかなりそわそわしているのだが。
『かなりかわいらしい方ですよ』
先程、ムウから送られてきたテレパシー。どんな子なのか想像しないわけがない。
「ほら早く!」
「おう」
急かして今にも飛び出していきそうなミロの後を追う。少し離れていた仲間たちの小宇宙はすでに獅子宮の前まで来ていた。
ぱんぱん。乾いた音が獅子宮の前に響く。
「、何をしているんだ?」
不思議に思ったサガが声をかける。頭をこころもち下げていたは顔をあげると、にっこり笑って。
「何って拍手をしているのです」
「は?」
「だから拍手を打っているのです」
「……?」
彼女の指差した先。そこには獅子宮の象徴、一対の獅子が雄々しい姿で立っている。
(獅子が? 獅子が何だというのだ!)
一人パニックに陥ってるサガを尻目には続ける。
「でも変ですよね。なんでここ、狛犬がいるのに鳥居がないんだろ?」
そこにいた全員があらゆるリアクションを示す。笑い転げる者、意味がわからずぼーっとする者、のボケっぷりに体勢を崩す者。
「おいおい、ここは寺じゃねぇんだぜ?」
「え、違うの?」
自称・日本通のデスマスクがさり気なく突っ込む。なぜ彼が日本に詳しいかは聖域七不思議の一つなのだが。しかしツッコミ返せば狛犬がいるのは神社である。
彼の間違いには気付いてないらしい。優勢気分のデスマスクに加わり、これまた自称・世界情勢に詳しいカノンが身を乗り出す。
「第一、ギリシャに寺があるわけないだろうが」
「あ、そっかー」
「まったく。しっかりしろよな」
横でムウが『あなた達もね・・・』と言ったが二人には聞こえなかったらしい。聞こえていたらしい沙織と貴鬼が横でくすくすと笑った。
わかっていないのはアルデバランとサガ。
「コマイヌとは何だ?」
「私に聞かんでくれ」
二人で顔を見合わせ、首をかしげる。
「サガならわかると思ったのだが……」
「私にだって知らんことはある」
今度調べておこうと一言言ってサガは、近づいてきた小宇宙の方を見る。そこには雄々しい獅子の戦士と――。
「ミロ、なぜお前がここにいるんだ?」
その言葉にそこにいた全員がそちらを見る。そこにはここの宮の守護者、アイオリアと天蠍宮の守護者、ミロがいた。
「待ちくたびれてアイオリアのとこに来てたんだ」
「一度注意したんですけどね」
ムウのその言葉にミロはピクッと反応して、ムウの方をきっと睨んだ。
「ムウのせいで俺、アイオリアの部屋の片付けさせられたんだぞ?」
「貴方が獅子宮に降りてきたのが悪いんです」
「何がだーーー!!」
ミロが怒りを炸裂させるもムウはまったく涼しい顔。
「本棚片付けるの大変だったんだぞ!」
「アイオリアすみませんねえ。部屋を散らかしてしまって」
「いや、別にいいよ」
「って俺のことは無視かよ!」
某お笑い芸人のように思わず突っ込んでしまうミロに三人のやり取りを見ていた皆が笑う。
「だって早く見たかったんだよ!」
「はは、天蠍宮はかなり上だからな」
「文句なら自分の星座に言ってくださいね」
「うぅ……」
「ミロ、諦めろ。ムウに口で勝てるわけないだろう」
サガが笑いながらミロをとがめる。
「おや、心外ですね。口だけですか?」
「これは失礼」
ムウの微笑みにすっと肩をすくめて笑ってみせるサガに、またみんなの笑いがこぼれる。
からかわれたミロは頬を膨らませていたが、やがてバカバカしくなったのか、一緒に笑い出す。
その時ふと、笑っていたアイオリアがの方に目を向ける。その見慣れない女性が今回やってきた沙織の従兄弟なのだとわかると、アイオリアはの前に歩いて来て、手を差し出して微笑んだ。
「初めまして、ここを守護する獅子座レオのアイオリアだ」
「よろしくお願いします。
です」
二人が互いに握手を交わしていると、後ろからミロもやってきた。
「ずっと待ってたんだ。俺が天蠍宮にいる、蠍座スコーピオンのミロだ」
「へ? 待ってたって??」
「もちろん、キミのことをだよ」
爽やかな笑顔で笑われても思わずにこりと返す。のその笑顔に隣りでアイオリアが少し赤くなった。それに気付かないデスマスクとミロではない。
「おーっ、いっちょ前に赤くなってんのか、狛犬ちゃん」
「な……なんだよ狛犬って!」
「女の子の笑顔見ただけで赤くなるなんて純真だなあ」
「ち……違うってッ!」
ミロとデスマスクにからかわれてアイオリアは顔を真っ赤にする。それを見ていたはふふっと笑う。
「仲良しなんですね」
「違う! 悪友だ!」
「お友達には変わりないじゃないですか」
の言葉にデスマスクとミロが歓声を上げる。
「こいつら悪友だよ!」
「そんなことないですよ」
デスマスクとミロが相づちを打つ。二人に肩を組まれたままのアイオリアはみるみる顔を赤くして。
「あらあら、アイオリア、顔が真っ赤よ」
「ア……女神まで!」
クスクスと笑い声をあげる沙織にも一緒に笑う。そんなの耳元に沙織がそっと囁く。
「アイオリアって意外と照れ屋なのね」
「いつもは違うの?」
「いつもはもっと『聖闘士です!!』みたいな顔してるわ」
「そーなんだ」
顔を見合わせくすりと笑いをこぼす。
「おや、二人で内緒話ですか?」
ムウがにこりと笑って尋ねる。それにと沙織はそっと目配せをすると。
「そう。女同士の内緒話、よね」
「ならば、私は聞くわけにはいきませんね」
ふっと笑ったムウにつられて、と沙織もまた、くすくすと笑い声をもらした。
ミロとデスマスクにさんざんからかわれたアイオリアは、まだ少し顔を赤くしたまま、こほんと咳払いをする。
「それじゃ、上にあがるか?」
他の皆をうながして次の宮、処女宮へと歩を進める。
「なんだ? 照れ隠しか?」
「違うって言ってるだろ!」
隙あらばからかおうとしているデスマスクに、慌てて否定の言葉を返すとアイオリアはマントを翻し自宮を抜けていく。
彼を追いかけるの耳元でそっとミロが囁く。
「あいつ、あんなんだけどいいヤツなんだぜ」
「うん、わかるよ」
「そっか」
だから友達なんだね、とが返すと、ミロは笑いながら頷いて。
(悪友なんかじゃないよ。いい友達じゃない)
そう前を進むアイオリアの背中に話しかける。
「さ、行くぜ!」
隣りにいたデスマスクに手を引かれてアイオリアのところまで走る。慌ててミロもの手をつかみ、一緒に走りだす。
「「「アイオリアー!!」」」
「うわっ!」
三人でアイオリアにタックルをかますと、さすがの黄金聖闘士でもさけられなくて、アイオリアは少し前によろける。
「急に何するんだよ!」
「「「へへへー!」」」
「……まで」
「ふふっ」
額に手を当ててはあ、とため息をつくアイオリアにミロの一言。
「そんなにため息ついてるとじいさんになっちゃうぞ?」
「な……なんだって!?」
思わず聞き返すアイオリアにさらに。
「キャー! アイオリアおじい様〜!」
思いっきり声を裏返しアイオリアの肩に抱きつくデスマスクにアイオリアは慌ててその手を振り払う。
「何するんだ! 気持ち悪い……ッ!」
「あー、アイオリアってばつれないんだー」
「「まったく友人の愛情ってもんがわかってないよなァ」」
にまでからかわれてまたまた顔を赤くするアイオリア。そんなアイオリアに三人も大笑いして。
「そんなに笑うなよ!」
「えー、いーじゃない」
「人生笑いが一番だろー」
「いやー、つい条件反射でな!」
笑いながらアイオリアの周りを囲んで歩き出す。夏の太陽に照らされて緑の葉が光る中を四つの影が次の宮へと進む。
まるで皆、昔から友人であったかのように、笑い声を響かせながら。