バカな計画が持ち上がったその夜。
「ったく見回りなんてやってらんねぇよな〜」
「しょーがねぇだろ。オシゴトなんだからよ」
「なあ。終わったら一杯ひっかけねぇか?」
「ああ? 飲む前に寝ちまうよ」
「そうじゃなくてよ、この見回りが終わって……おい」
「………」
「おい、聞いてんのか……?」
固まったままの同僚を不審がって男がその視線を辿った先には……。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「出た! 出やがった!!」
情けない悲鳴を上げて一目散に逃げ出す二人。その視線があった先にはうすら笑いを浮かべる白い影。
場所はもちろん。
白銀聖闘士の慰霊地だった。
「ボンジョルノ! シニョリータ!」
「ああ、おはようさんどす。蟹はん」
「テメェ! この俺を蟹呼ばわりするたぁ、ずいぶん偉くなったじゃねぇか……?」
ころころ表情を変える目の前の男にめんどくさそうな視線を投げかけて、は寝起きの動かない体をソファに投げ出した。
目覚めのはすこぶる愛想が悪い。
「朝っぱらから何の用?」
目覚めの一服を肺に入れると、デスマスクは待ってましたとばかりにの肩に手をかけた。
「いい話だぜ。昨日もな……出たんだとよ」
「何が?」
「決まってんだろ。慰霊地のこれだよ」
恨めしそうな顔をして手を胸の前で垂らす。その姿に一瞬の顔が引きつって。
「その話はすんなっつったじゃない!」
次の瞬間、の拳に込められた怒りがデスマスクの頬にヒットした。
「それで、メンバーはこの六人で構わんな?」
「いや、五人で十分だと思いマス」
「ヤだよ! も一緒にいかなきゃ、な!」
「フッ。肉体は二十歳とはいえ、中身は三歳児か」
「なんだと!」
「お前たち、ちょっとは落ち着けよ……。あ、ありがとう。デスマスク」
「おう、いいってこった……ってなんで俺がお茶くみしてんだよ!」
白いふりふりエプロンでアイスコーヒーを運んできたデスマスクがほえた。
「朝っぱらから人んち殴りこんできた罰よ」
「ああ? もう十分だろうがよ!」
「そういえば君はに殴られたらしいな。黄金聖闘士が情けない」
「うるせぇな! 第一なんでテメェらまでいんだよ?」
デスマスクの指差した先にはまったりとコーヒーと紅茶を飲むサガとシャカの姿。しかも二人揃ってソファを占領している。
「しょうがないだろう。私はこれでも黄金最年長だからな。黄金聖闘士の行動を把握する義務がある」
「私がその幽霊とやらを成仏させてやろうというのが気に食わないのかね?」
(ほんとはただ楽しんでるだけのくせに)
は内心そう思ったが、一応は聖域の有事。黄金聖闘士が動かないのでは話にならない。
「だからね。こんだけいるんだし、あたしは行かなくてもいいかなって、ね」
がひっそりと提案するも、ミロの「ダメ!」の一声で却下される。
「すまんな、。ミロもこう言っているし我々と同行願えないだろうか?」
サガがやんわりとを諭す。
言い方はどこまでも丁寧で。しかし、その顔には有無を言わせない微笑が。
これぞ必殺『神のような微笑(懇願編)』。どんな猛者でもこの技を破った者はいないと言う――。
猛者すら敵わないこの笑顔にが勝てるはずもなく。
「なんかあったらあんたたちのせいだからね……」
「ありがとう。身の安全は保障しよう」
勝利の台詞を決めたサガの顔を睨むと、は紅茶を一口すすった。