「は? 幽霊?」

眉毛を寄せて囁かれたミロとアイオリアの言葉には怪訝な目を向けた。

「もう夏は終わったのよ。今さら怪談なんてバカバカしい」
「違うんだって! 昨日雑兵が夜間見回りの時に墓地で見たんだって!」
「二人とも見てるからあながち嘘とも言い切れないしな」
「そんなことないって。それより昨日のクイズ見た?」

二人の言葉を鼻で笑いながらも内心ビビりまくりのは無理やり話題をそらそうとした。

だが。

「おい。墓地に幽霊が出たって本当か?」

(このいらんことしいが!)

思わぬ伏兵・デスマスクの登場に の顔が一変した。恐ろしい形相で睨まれたデスマスクは思わず黄金聖闘士ながら恐怖を覚える。

「おい、そんなすげぇ顔で睨むなよ」
「え? ああ、気にしないで」
「……変なヤツだな」

(あんたには言われたくないよ……)

の内心知らず、デスマスクは視線を外すと小さな声で続けた。

「なんかよ、白銀の墓地で真夜中……出たらしいぜ」


デスマスクの話はこうだ。
聖域に点在する聖闘士の墓地。いくら現代の聖闘士がすべて蘇ったとはいえ、過去にその尊い命を散らした聖闘士たちは今も眠っている。そんな彼らへの鎮魂の意も込めて、一日二回の見回りが雑兵には義務付けられているのだ。

そして今日。時は草木も眠る丑三つ時、白銀聖闘士の共同墓地。
日課の黙祷を捧げた雑兵二人が移動をするため顔を上げたその時、墓地の真ん中で闇に白く浮かび上がる人らしきものを見たらしい。
そして慌てて確認しようとした雑兵たちの目の前で――。

その影はすうっ、と闇に消えたという――――。



「つーわけだよ」
「俺は消える時にうっすら笑ったって聞いたぞ」
「誰かの墓の前にいたらしいが雑兵たちは慌てて逃げ出したそうだ」

情けない、と付け加えたアイオリアはに意見を求めようと振り返った。

「……何やってんだテメー」
「なんだ? もしかして、新しいプロレス技の開発か?」

デスマスクとミロの視線の先。そこには巨大なうさぎのぬいぐるみを抱えて悶絶するがいた。

「……かにのばか」

小さく呟かれた一言に、デスマスクがぴくりと反応する。

「ああ? 聞こえねぇなぁ」

わかっていて、わざとそう言って顔を近づけてくるデスマスクがあまりにも憎らしかったのか、ついにの感情が爆発した。

「ばかばかばか! あんたが小声で話せば聞かずに済んだのに!」
「あぁ!? 十分小声だっただろうが!」
「あんたの小声は大声なのよ!!」

持っていたぬいぐるみでこれでもかとデスマスクをどつくをミロとアイオリアが止めに入る。

「まあ、落ち着けよ」
「きっと何かの見間違いに決まってるさ」
「でも本当にいたらどうすんのよ!」
「バーカ。その時はその時に決まってんだろ」
「そんな無責任な―――――!」

雄たけびを上げながらぬいぐるみを振り回すをあとの二人が止めに入った。その時間、ざっと五分。黄金聖闘士三人がかりでも、恐怖でパニックにいる人間を止めるのは、いささか骨が折れたらしい。
それでも何とかようやく落ち着かせて、まだ文句を言い続ける彼女をなだめつつ、三人は本題へと突入する。

「で、どうする?」
「どうするってもう少し様子を見た方がよくないか?」
「アイオリア、お前意外と頭回るじゃねぇか」
「少なくともお前よりはな」
「なんだとこの野郎……」
「まあまあ、二人とも落ち着けって」

あっという間に一触即発へとなだれ込む二人を宥めると、ミロは話をまとめた。

「じゃ、今晩もう一度見たって話があがったら明日の晩確認することにしよう」
「そうだな。さすがに一晩では本当がどうかわからんしな」
「そうと決まればメンバー確認だ。俺ら三人だろ。それから……」

デスマスクが振り向いて。

「もちろん、お前も来るよな?」

いまや子ウサギのように震えるにニヤリと悪の笑みを見せた。



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