どがっ。ばきィッ。・・・ばたん。

今までそこにあったものがなくなる時、人は小さいながらも喪失感に襲われる。
そしては今まさにその状態にあった。

「・・・・ドアが」

呟いてみても後の祭り。
壊れたものは元に戻らないと物理化学的にも証明されている。

「待たせたな小僧ども!」

独特の名台詞(使いまわし)を叫んだ見た目お兄さんは
今しがた自分でぶっ放したドアを踏みつけながら堂々と部屋の中に入ってきた。

彼の勢いからか、壊れたドアがさらに小さな木片へと姿を変える。

「お待ちしてました、教皇」
「予定より少し遅れられたのではありませんか?」
「馬鹿者。お主の兄をまこうとした結果じゃ」

己が道を突っ走る教皇様は呆然とドア(のあった所)を見つめるの横で、
このわしにかかればサガなどうんぬんかんぬんと自慢までし始める始末。

更には。

「ん?そんなに呆然としてどうしたのじゃ、小娘」

の頭に手を置きながら『私は慈悲深い教皇ですよ』オーラを放ちだす。
その握られた拳が震えているのも知らず。

「どうした?この平和な良き日に何をそんなに憂いておる?」
「・・・・・・のよ」
「ん?」

シオンがの顔を覗き込んだ時。

「うちのぶっ壊れたドアどうしてくれんのよ!!!」

ぽっかりと穴の開いた入り口を指差し、が鬼の形相で叫ぶ。
しかし。

「なんじゃ、そんなもの。後で雑兵にでも直させればよかろう」

飄々と言い返したシオンにその場にいる全員が思った。
『この男にだけは敵わない』と。







結局、文句ぶーぶーのに参ったシオンが雑兵を呼び出し、
大急ぎでドアの修理をさせている間。

「して、わしの衣装はどこじゃ?」

あたりを見渡したシオンにミロが慌てて白い服を手渡す。

「こちらにございます、教皇」
「うむ、ご苦労」
「お手伝い致しましょうか?」
「構わん。これぐらい自分でできる」

(まー、ちやほやされてる教皇様だこと)

「小娘。今何か申したか?」
「いいえ、なんにも」

周りに黄金聖闘士をかしずかせ、
これまた人の目を気にすることなくさっさと法衣を脱いでいくシオンは
やはりというか何と言うか、いろんな意味で最高権力者の姿を彷彿とさせる。

「てか何それ?」

着替え終わったシオンは明らかに幽霊のような格好はしているが、
別にメイクも何もなく、ソファでくつろいでいる。

「ん?知らんのか?『百太郎』なぞ申す妖怪の格好じゃ」

雅に言葉を放つも目が、『そんなことも知らんのか』と言っているようだ。
いや、言っている。

「お主、自分の母国のことなのに何も知らんのだな」
「いや、知ってるけど。普通、そんなマイナーなこと日本人でも知らないよ」

笑顔とは裏腹にどす黒い空気が取り囲む中、
アフロディーテが少し慌てたように二人の間に割って入った。

「もうそろそろ次の行動に移らなければ、時間に間に合いませんよ」

シオンをたしなめるその姿はどこから見ても普段の彼とは違う。
これがもともとの黄金聖闘士のあるべき姿なのだろうか。

しばしの睨み合いを続けていた二人も、
その言葉で我に返ったように心持ち姿勢を正す。

「では、計画の最終確認をしましょう」

カミュがどこから出したのか、小さな紙切れを読み上げる。

「まず、それぞれの黄金聖闘士のところへ行き合流します」

段取りはこうだ。
ここにいる6人でそれぞれの宮に行き、ほかの黄金聖闘士たちを連れてくる。
集合場所は双魚宮。時間は7時半。時間厳守である。

そして最終目的地は。

「教皇宮・・・」

誰ともなしに呟く。

「目的はもちろん・・・」

カミュが言葉を繋ぐと共に全員が顔を寄せ合い。



「「「「「「サガにいたずらを仕掛けること!!」」」」」」

顔を見合わせるとニッと笑い、計画の成功を願って手を握り合う。

「あやつに一泡ふかせられる絶好のチャンスじゃな!」
「こっちがビックリしないようにカノンで練習しておくか?」
「バカ。俺じゃなくてサガだから面白いんだろうが!」
「日頃表情を変えない分、かなりすごいものが見られるかもな」
「大声なんか出しちゃったらもっと面白いだろうな〜!」
「そんでもってうろたえちゃったりなんかしたら・・・」

「「「「「「うろたえるな小僧――――――――!!」」」」」」

「頼んだわよ、シオン!」
「まかせておけ。わしに不可能はない!」
「さすが教皇!!」
「あ〜、もう想像しただけで笑える!」
「今夜は最高の夜になりそうだな」
「見てろよサガ!!」

聖域にひそむオバケたちの楽しい夜はまだ始まったばかり。




NEXT