ソファで夢を見ること数時間。
すでに日は西へ傾き、東の空に朧げな月がその姿を現す。
今夜の天気は曇り。これから始まる祭りにはぴったりだ。
「お〜〜〜〜い、〜〜〜〜〜〜」
「・・・いい感じに伸びるもんだな」
約束通り現れたミロとカノンは着いて早々、寝ているで遊び出す。
ソファの形がちょっとついたほっぺたを引っ張ったりひねってみたり。
昼間こっぴどく叱られたのにこの有様。
どうやら彼らに学習本能という機能は備わってないらしい。
そしてそれを後ろから何もせず、ただ見守る男が2人。
「そろそろ起こしてやれ。このままでは計画の実行に響くだろう」
「そうだな。おい、起きろ」
「う〜・・・。おやつにバナナは入りませぬと申すのが・・・」
「・・・いったいどんな夢を・・・・・・」
「ん?おやつにバナナは入らない夢だろ?」
それより口調に突っ込むべきではないのか、とカノンは一瞬思ったのだが、
とりあえず面白いのでそのままにしておく。
しかし元々目覚めの悪いと雑兵たちの間で評判の彼女を起こすのは一苦労。
普段はめっぽうに弱いくすぐりにも反応しないあたり、
かなり熟睡のご様子である。
「しかし見事なまでに眠っているというかなんというか・・・」
「上から吊るして殴ったら起きるんじゃないか?」
「彼女も『一応』女性だ。そんなことをするのはよくないだろう」
「見た目は少し怪しいけど・・・」
「よし。とりあえずソファから落とせ」
どすっ。ガコン。
「あ、テーブルにぶつけちゃった・・・」
「・・・それでも起きないのだな」
4人が眠るの顔を覗き込んだその時。
「バナナはおやつでないと申すのがわからんのか!この痴れ者が!!」
盛大に意味不明な台詞を口走って目を見開いたに一同は声を失った。
「・・・?お・・・おはよう」
最初に声をかけたのはミロ。
それに寝ぼけ眼で振り返ると、
はようやく自分の置かれている状況を把握する。
「ありま。皆さんお揃いで。ご機嫌よう」
「「「「ご機嫌よう」」」」
起きた瞬間からこのテンションのに、
一同は軽く眩暈を覚えながらもとりあえず応対すると、
は満足気に頷き、むくりと起き上がる。
「あれ?なんか頭が痛いわよ」
ふと呟かれたその言葉に4人がぴくっと反応する。
言えない。絶対に言えない。
起こすためにソファから落としたらテーブルで頭を打たせてしまいましたなど。
言ったらこの小屋が血の惨劇の舞台と化すのがわかっているから。
そして真っ先に血祭りに上げられるのは・・・、
本人たちが一番理解しているだろう。
「もう夕方なのね。ってあれ?なんでアフロディーテとカミュまで?」
「あの計画を実行するには彼らに騒がれるとマズいからな」
「あ、そっか〜」
「それに今回の衣装を作ってくれたのはこの2人なんだぞ」
「えぇぇ?!そうなの〜?実は2人とも器用?」
「ちょっと人並みに出来る程度のものだ」
「氷河とアイザックを育てた時にちょっとな」
口調のわりには2人ともさり気なく誇らしげである。
「さ、時間も迫ってきていることだし早く着替えるぞ」
はやる気持ちを抑えきれないのかミロが上着のすそをめくる。
それに続いて他の3人も次々と上着に手をかけ・・・。
「ちょっと待ったァァァァ!」
の雄叫びに全員が注目する。
「ちょっとちょっと。あたしにもここで着替えろっての?!」
さすがに20代に突入した女が、
これまた20代の男(約1名は30代に手が届く)に囲まれて
嬉々として洋服を着替えるのには問題がありすぎる。
と、思ったのだが。
「ん?何か問題があるのか?」
すでに上半身裸でズボンのファスナーを下ろしにかかる三十路前。
恐るべし聖域。恐るべし(ほぼ)男だけの世界。
「問題大ありじゃぁぁぁぁぁぁ!!」
はぽかっと一発カノンの頭に決めると、アフロディーテを睨む。
「アフロディーテだけはわかってくれると思ったのに・・・」
苦々しく呟いたに。
「てっきり私の美しさを堪能したいのかと思っていたよ」
クリーンヒットのナイスボケをかました22歳魚座の男子だった。
「もういいわ!ささっと衣装をおよこし!!」
差し出した衣装を奪い取り自室に消えていったを見送って。
「ミロやカノンはともかくなぜ私まで・・・」
自分にはデリカシーがあると信じて疑わない青年がズボンを下ろしつつ呟いた。
彼が自分の考えが過ちだと気づくのはまだ当分先のことである。