心のある場所
「……。」
「……。」
「……何を見ておるのじゃ、 ?」
「ん〜……羽?」
は机の上に頭と両腕を置いてもたれかかり、文字を紡ぐペン……
の上についている羽を目で追っている。
シオンが文字を書く度に紙の上をすべる羽は軽やかで。
魔法の……魔法の……よう……に……――――――
次に目をあけた時。
はシオンが仕事をしている机からほんの少し離れたソファに居ることに気がついた。
「気がついたか?」
シオンが視線も向けずに呼びかける。
「気がついたかって……うとうとしてただけだよ……?」
半分ホントで半分ウソだけど。
気持ちは起きてるつもりだけど一瞬意識がなくなったから。
「……ほうほう。じゃあ、さっき余が小娘にしたことも覚えておるのじゃな?」
ちょっとマテ。
なんなのよ。そのニヤリ笑いは。
「何したのよ。」
「覚えておるのではないのか?」
ふふん、とばかりに を見つめるシオン。
仕事中にだけかける眼鏡の奥の瞳が一瞬光っているように見えた。
(くわッ、ヤな奴〜……)
とは口に出さないものの、 は思い切り表情に出してジト目でシオンを見つめ返した。
「ところでじゃ。 。……何故ここにおるのじゃ?」
「シオンお仕事大変だな〜って、ちょっと応援に……」
あくびを噛み殺して目を擦りながら言う に、シオンは引きつった笑顔を送る。
「応援というより、邪魔と言わぬか?」
「いや、応援だよ。ちょーっと昼間忙しかったこととお風呂に入った後ってことで
眠気が……するだけで……」
はわわわわ……と はあくびを1つした。
「……みゅ。」
突然と―――それはいつものことなのだが―――シオンの膝の上にテレポートさせられ。
そのままシオンは、まだあくびをしている の鼻をきゅっと掴む。
「まだ目が覚めぬようじゃな。……邪魔はもうよい。早く寝らぬか。」
「にゃまにゃにゃいってっ!」
鼻を掴む手を握って抗議する彼女の目は瞼が3重にもなっている。
何処からどう見ても、眠たそうな顔をしているのがよく分かる。
「全く、そういう小宇宙を漂わせられると気が散ってしょうがないわ……」
はあ、とため息をつくやいなや。
シオンは を抱え上げて隣の部屋のベッドまで運んでいく。
「シオン、仕事しないと!」
「余計なことが増えたからのう……それを終えぬと仕事なぞ出来る訳が無いじゃろう?」
そして、ベッドについた所で。
ぼふ。
放り投げられた。
「うーん……さすが教皇! いいベッド使ってるんだねぇ……で、余計なことって何?
……っぷ!」
ベッドで寝転んでいる の顔に、何か柔らかい物があたる。
枕だった。
「ここまでお膳立てしてやって、まだ分からぬと言うのか?」
今度はシオンが、さっき が机の上でしていたようにベッドに両腕と顎をのせる。
「寝ろってこと?」
「今から寝物語を聞かせてやろう、と言っておるのだ。」
昔のようにな、とシオンは笑う。
「あのね。君の仕事が終わるまで起きてるって言ってるでしょう?
それに、もう私は小さい子供じゃないって!」
「余から見ると、十分子供じゃ!……それに、大人は“子供じゃない”とは言わぬじゃろう?
ムキになって言い返す所など、まだまだ子供としか言い様がないからのう?
違うか、小娘?」
「はいはい。でもね、絶対トーキングベッドなんかされたって寝ないんだからね。
“子供”じゃないんだから。」
シオンは眠気とも戦っている の額にそっと手を置き、ゆったりと笑う。
――――――そこの所だけ見ると、あのムウのお師匠さんだってよく分かるけど。
「じゃあ、何の話からしようか……やはりこれかのう? ありきたりじゃが……。
『昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
お婆さんは山へ芝刈りに。お爺さんは川に洗濯に……』」
「……シオン。ありきたりだよ。
いや、それ以前にお爺さんとお婆さんの立場逆じゃないかな……と思うけど。」
はあくびを抑えたものの、涙を抱えた枕でそっと押さえながら枕に顔を預けたまま見上げる。
「そうか。この話は知っておるのじゃったな。 難しそうな話なら良いのか?
……よし。“特殊相対性理論”について語ってやるとするかのう?」
「それは止めて。本気で活字中毒起こすかもしれないから……」
答えの早さ、0.2秒。
ほぼ即答に近いスピードで の本気のブロックが入った。
「物理系はアテナよりも成績が良かったのであろう?」
「いくら良かったとしても、それを聞かされたら『寝る』というより『気絶する』
と思うよ……。」
「よいではないか。『寝る』も『気絶する』もそう変わらんじゃろうが……」
シオンは我儘な小娘じゃのう、と軽く首をすくめて見せた。
「トーキングベッドなんだから、普通童話とかでしょう?
もう少し難しめの話とか……今までのシオンの話とかがいい!」
「今まで十分過ぎるほど語ったじゃろうが……。全く……。
物語を読んでやるのはやめて、昔のように余に抱きついて寝るか?」
「それは恥ずかしいから止めとくよ……。それに小さい子ならともかく……」
「知らんのか? 大人も抱きついたまま寝るということもあるのじゃぞ?」
思わず はドキッとしてしまった。
普通は悪戯っぽく笑って言いそうなシオンなのに。
鋭い瞳で射られているようにも思える。
でも、どこかしら暖かいような優しいような瞳をしている。
さんざん……思いっきり私を子供扱いしてきたシオンなのに。
「……何を考えておったのじゃ?」
「へ?」
気がつくと、シオンはいつも浮かべるあの意地悪げな笑みを浮かべていた。
「何をマヌケな返事をしておるのじゃ。さては、余のことを考えておったのか?」
「……うん。……そーだね……。」
「ん?」
眠いのか、天井をぼーっと見つめたまま素直に答える に、シオンはかえって
驚きを覚えた。
いつもなら、ムキになって反論してくるところであろうが。
「シオンってさ。……心臓に悪い。」
「……それが教皇をつかまえて言う台詞かのう?
早く寝てもらわねば、余は仕事ができないと言っておろうが!」
「だって、シオンがトーキングベッドしてくれるって言ってたじゃない。
……こっちは寝るつもりなんてないけどね〜♪」
「……。」
シオンはジト目で を見つめた。
本当に可愛くないのう、と。
「まあよい。適当に話をしてやるから、余計な茶々を入れるでないぞ。」
「うん。」
ベッドに腰掛けなおしたシオンを見て、わくわくとした瞳で が見ると。
こほん、と咳払いをして話し始めた。
「『ジョン=グリア孤児院で暮らすある娘の話じゃ。その娘の名を……』」
はシオンの話を黙って聞いていた。
教皇として聖域に復帰して。
どこか遠くへ行ったように感じられたシオンが、昔のようにこうして話をしてくれると言うことが。
何故かとても嬉しかった。
恐い事があった時も、不安だった時も。
シオンがいるだけで安心した。
「『娘は喜び、心から感謝するのだった。』……小娘?」
暫く話し続けてシオンが の顔を覗き込むと、すうすうと気持ちよさそうな寝息を立てて眠っていた。
シオンはそれを見て、思わず優しく笑みを浮かべた。
「どこからどう見ても、まだまだ子供じゃのう……。ゆっくり休むのじゃぞ?」
そっと眠っている の額に口づけて静かに立ち去ろうとした時。
ローブのすそが何かに引っかかった。
「む?」
裾をゆっくり持ち上げてみると、 の右手がぶらーんと上がる。
「……余に裸になれと言うておるのかのう……」
シオンは仕方なくベッドに座り直し、 の頭を撫で続けていた。
「う〜ん……気持ちいい朝だね〜♪」
が身を起こして気持ちよく伸びをすると、手を下ろした時何かに当たった。
「……おお。起きたのか。」
「うわッ……!」
ガシッと の手を掴み、ぬうっと顔を上げたそこには。
目の下に何重ものクマを作ったシオンの顔があった。
「シ……シオン?! どうしたの一体?!」
「……。」
ぼへーっとした顔で、シオンは宙を仰いだ。
あの後。
結局いつまで経っても が袖を開放してくれそうになかったので、
一晩中その場を動かずひたすら仕事をしていたらしい。
「……寝る……」
「は?」
「余は寝る! 起こすでないぞ!」
言うと、シオンはそのまま倒れこんだ。
の方に向かって。
「重い……」
避けきれなかった は、そのままシオンの下敷きになってしまったのだった。
しかも、丁寧に背中に手を回されたままで。
「シオンって大きいから、外から見たら下に私がいるなんて分かんないだろうなぁ……」
身動きが取れないまま、大きく息を吐き出す。
目が覚めるまでだからね。
は、シオンの温かさを感じつつ再び瞳を閉じた。
用務員様から頂いたシオン夢です。
うちのキリ番女王であらせられる彼女が葉月のあのヘボ話たちのお礼に書いてくださったのですvv
しかもシオン夢を!!
なんですか、このシオン様!
鬼並みにかっこいい&素敵なダーリンじゃないですか!!
一瞬、本気で葉月のシオン夢を消去しようかと思ったほどステキvv
もう充分!!コレを読んだだけで、3日間はシオン妄想できます!
なんてゆーかもう正直、77sに押しつぶされたい(大真面目)
用務員様、素敵な夢小説をありがとうございました!