この恋は人から見れば
5足で1000円の靴下さ
なのに僕は心底それが欲しいのさ
どうにかなってしまいそうかも




「ねぇ、デスマスクはあたしのどこがいいわけ??」

食ってる最中にしれっとそんなこと聞くなよ。
思わず喉に詰まっちまったじゃねぇか。

「ねぇねぇ、教えて??」

人が目ェ白黒させてんのに、何もナシかよ。
まぁ、そんな勝手気ままさもお前の魅力だ。



付き合って2ヶ月。
まだまだ初々しい二人・・・のハズなんだが。
バカみてぇに落ち着き払ってこんなこと聞くお前は不思議。
この俺が振り回されてるなんて自分でも信じられん。

「どこって別にねぇよ。何となくだ、何となく」

とりあえずそっけなく答えたら、ふぅんって。そんだけか?!
普通、『どこなのよ!!』ってさらに問い詰めるんじゃねぇのか??
まぁ、俺の経験上だけどな。
その『普通』が通用しないからお前といるのはおもしろい。


うわ、こいつまた注文すんのかよ。
そのケーキ一体、何皿目だよ・・・。
『パスタはおなかいっぱいになる』とかって一皿しか食わなかったくせに。

「んふふv苺のショートvv」
「そんな食ってると太るぞ」
「いいの。デスより重くはなんないから」
「あ、そう・・・」

そうか。俺より重かったらヤダ・・・って俺82キロだぜ?!

「お前相撲取りにでもなるつもりかッ?!」
「突っこむの遅い」
「突っこむとかそーいうもんじゃねぇ・・・」
「まぁまぁ、落ち着きなさいよ」
「落ち着けるか、アホ!!」

手を上げて『まぁまぁ』とか言いながらケーキ食うなんて器用だな。
そんな思ってるうちにお前は本日4皿目のケーキをたいらげて。

「満足したか??」
「うん。ご満悦vv」

だぁぁぁぁぁ!!その笑顔に弱いんだよなぁ・・・。
なんでそんなにかわいいんだよ。
別に特別美人でもなければ、か弱くて儚げでもない。
一般世間で言えばごくごく普通の顔なのにさ。

でもな、どこでどうなったか知らんが、
とりあえず俺の中では世界一の女だ。
確かに俺は面食いだ。
それは皆知ってるし、俺もそうだと思ってる。


なぁ、俺はお前のどこが好きなんだ??

顔も普通。性格だってもっと可愛げがあったら。
落ち着きだってねぇし、ガキくせぇし。



・・・なんかこいつを好きな俺がわからなくなってきた。

「ねぇ。デスどうしたの??食べ過ぎて気分悪いの??」

その声にはっとして顔をあげる。
どうやら俺はかなり真剣に悩んでたみたいだ。

それなのに悩みの種はすでに店から出る準備までして。
俺も慌てて準備して店を出る。
でも頭ん中はさっきの答えを探すのにいっぱいで。





「デスってば!!どこ行くの?!」

無理やり立ち止まらされて、ふと見上げると映画館の前。
あぁ、今日は映画見る約束してたっけ。

「行くか」
「うん。・・・デスどっかおかしいの??」

その言葉になるべく普通に。

「いいや、何でもない」

あ、ぶっきらぼうになっちまった。まぁいいか。
それを聞いて安心したのか、お前は階段を軽やかに昇ってく。

おぉ、パンツが見えそう・・・。

そう思った瞬間、スカート押さえやがって。

「今、なんか怪しいこと考えてたでしょ??」
「思ってるじゃない!」

笑いながら階段を降りてきて、俺の手を握る。
つい口を滑らせてしまった・・・。
今日の俺ってほんとイケてねぇ・・・。





映画は大して面白くもない歴史アクション。
なんであんなヤツに苦戦してんだよ。
俺なら一発で地獄送りだぜ。

こんな映画のどこがおもしろいんだか。


そんなこと考えて横向いたら。

おい、お前何泣いてだよ?!
この映画のどこに泣くとこがあんだよ!!


それでもお前は泣き止まなくて。
声だすわけにもいかなくてそっと頭を抱き寄せたら、
すげぇ安心したみたいに体まで預けてきて。

しばらくしたら寝息なんかたててやがった。





「ったく、見たいとか言っといて寝てんなよ」
「だって思ったより面白くなくて・・・」
「でも泣いてたじゃねぇか」
「アレはアレで泣けるとこがあったの!!」
「あったか、そんなとこ」
「あったよー。あの女の人が捕まって男の人が助けにいくとこ!!」

あぁ。なんかそんなとこあったなぁ。
でもアレで泣けるもんなのか。


泣けるんだろうな、こいつは・・・。
ほんとわかんねぇ・・・。




時計を見れば、映画が遅かったせいでもう帰りの時間。
今日もごくごく普通のデートが終わった。
ほんとに普通の。
どこにでもあるような、普通の恋人たちと同じような一日が。

「なぁ、
「何??」

ふと立ち止まって、お前に話しかけたら笑えそうなくらい間抜けな顔で見てきて。
そっと頬を撫でてみる。
柔らかくて温かな頬。

「今から俺んち来ないか??」
「え??なんで??」
「・・・いや、まだお前といたいから」

何言ってんだ、俺。
今、とてつもなく俺らしくないこと言っちまった。


でも、お前はすごく幸せそうな顔で笑って。

「あたしもデスともっと一緒にいたいv」

なんて言いやがった。


その笑顔に俺は撃沈。
しかも心の隅では浮かれまくってたりしてる。

なんでお前の顔色一つ一つに過剰反応しちまうんだろう。
この俺がペース乱されちまうんだからな。







あ。
今、わかった。

「多すぎてわかんねぇんだな」
「は??」
「いや、だから多すぎてわかんねぇんだよ」
「だから何が??」

おいおい、その目線は何だ。
その、すんげぇ怪しい目は・・・。

「デスがおかしくなっちゃった・・・」

ぽつりとお前が呟いた。
ってお前、自分が言ってたこと忘れてなんだそれは?!

「誰がおかしいんだよ?!」
「だって一人で呟いてなんか納得してるんだもん!!」
「お前わかんねぇの??」
「何何??あたしなんか言った??わかんないよ!!」

こいつ・・・、大物だな。
この俺をずっと悩ませといて自分は忘れてんのかよ。

「じゃあ、家着いてから教えてやる」
「えーー?!今じゃなきゃヤダ!!」
「ワガママ言うな。ほら行くぞ」

それだけ言ってお前を抱え上げる。
こいつ、あんだけ食ってんのに軽いな。
簡単にに担げちまうじゃねぇか。

「やだ、恥ずかしいから降ろしてよ!!」
「やだね」

ギャーギャー耳元で騒いでも構うもんか。
俺は今、最高にイイ気分なんだよ。



俺は何を悩んでたんだ。
なんかバカみてぇに頭抱えて。
お前のどこが好きかって??
それがわかんねぇけど、なんとなくだって??
違う。多すぎてどれかわかんねぇんだよ。


普通でいいじゃねぇか。
俺らしいとか俺らしくないとか。

そんなことどうでもいい。
おかしくなっちまってもいいじゃねぇか。
誰がなんて思ってたって俺にはお前が世界一なんだから。






この恋は人から見れば
5足で1000円の靴下さ
なのに僕は心底それが欲しいのさ
どうにかなってしまいそうかも


<THE END>