ある晴れた午後。
特にすることもなくてぶらぶらしてると、の家の前に着いた。
無防備にも窓は開けっ放し。
ドアに手をかけるとすっとあく。
ドアまで開けっ放して、危ないヤツ。
おっと。
靴を脱がなきゃいけなかったっけ。
そっと部屋の中に入ると窓際に座りこんだまま。
近づいてみても、まったく気付いてないままで、どこを見てるのかわからん目をしている。
こいつ、ついにおかしくなっちまったんじゃ・・・。
「おい、??」
何度か呼びかけても、一向に反応なし。
こういう時はこう、抱えあげて。
「うろたえんな小娘ーーーー!!」
「うわぁぁぁぁぁぁッ!!!」
その小さな体を放り上げるといとも簡単に投げられて。
さすがに床に激突するのは忍びないから、落ちてきたとこでうまくキャッチしてやった。
「カノン!何、人の技パクってんの!!」
「が返事してくれないからだ」
だだっこみたいだな、俺。
まぁ、いいか。
「俺が何度も何度も名前を呼んでいたの知ってるか??」
「知らない」
即答か・・・。
そんなにはっきり言われるとちょっとアレなんだが。
俺はを抱えたままソファに座り込むとそのまま抱きしめる。
「カノン・・・??」
「・・・何でもない」
気付いてくれなかったのが寂しいなんて口が裂けても言えるもんか。
それなのには意味深な笑顔をすると。
「気付かなくてごめんね??寂しかった??」
そう言って俺の頭をなでる。
・・・なんでわかったんだろう。
それよりなんで俺、顔が赤くなってるんだ・・・??
「やだ、カノンってば顔真っ赤よ〜!もしかして当たってた?!」
は嬉しそうに手を叩いて、喜んでいる。
なんかムカついたから、顔を見られないように抱きしめたら。
そっと俺の首に腕回してきて。
「カノン、大好きv」
「俺もだ」
「俺も、何??」
顔を見ればちょっとすねたみたいな顔をしてて。
その顔がたまらなく愛しくて。
「俺もが一番大切だ」
そう言ったら子犬みたいに飛びついてきて。
軽くキスを交わす。
あぁ、このまんまずっといるのも悪くないかな。
そんなこと思って、のことを抱きしめてたら。
「そういや、なんか用??」
・・・なんで雰囲気ぶち壊すんだ。
しょうがないから、膝に乗せたまんま向き合ったら。
好奇心一杯の目で見つめられて。
正直、犯罪的にかわいい。
「早く用件を告げよ!!」
ちょっと偉そうに手をピストルみたく突きつけてきたり。
「はいはい。参りました」
「んで、何??」
「散歩に行こうと思ったんだよ」
手を挙げたまま、そう告げるとにこりと笑って。
「ちょっと待ってて!!」
そう言うと抱きしめようとした俺の腕をすり抜けて、さっさと奥の部屋に消えてしまった。
俺は抱きしめようとした腕を宙に浮かせたまま。
・・・慌しいな。
しょうがないので、ソファで一人座って待ってると。
「じゃーん♪お待たせvv」
そう言いながらが部屋から出てきた。
その姿はTシャツにブーツカットのジーパン姿。
さっきまでは白いワンピースを着てたのに。
「なんだ、その格好」
「散歩用だよ??」
「さっきの方がよかったのに」
「だって風で舞い上がっちゃうじゃない」
よくここまで言い返すもんだ・・・。
半ば呆れながら考えてると、しきりに腕を引っ張って。
「散歩♪散歩♪」
「・・・犬みたいだ」
「何でもいいからvいこvv」
「あぁ」
そんなにさらりと流すなよ。
そんな思ってること俺をさっさと家から閉め出して、鍵をかけると、俺の腕にくっついてきた。
「今日も海に行くの??」
「そうだが。他に行きたいところでもあるのか??」
「ううん。海がいい♪」
二人で腕を組んで海岸への道を降りていく。
海からの風が少し潮を含んですり抜ける。
「気持ちいーねvv」
「そうか??」
「そうだってばー」
浜辺で波と戯れながら子供みたいにはしゃぐ。
そんなを見ながら、俺は木陰で休んでいた。
海はそんなに好きじゃない。
髪がべたつくし、磯くさくなるし。
それにあまりいい思い出でもないし、な。
それでもここに来るのはが言ってたから。
海が好きだ、と。
海を見ると遠い祖国を思い出すからだ、と。
結局は遊び疲れて俺の横で眠ってしまった。
平和そうな顔をして。
なんて無防備な寝顔なんだろう。
そっとキスしたらクスクス笑って。
・・・こいつ、起きてるんじゃないか??
でも寝息をたてたまま、眠りこけてる。
夢でも見ているんだろうか。
こんな幸せそうな顔、よっぽどいい夢でも見てるんだろうな。
気持ちよさそうに眠るを見てたら、なんだか俺も眠たくなって目を閉じた。
目が覚めると辺りは暗くなっていた。
はまだ眠っている。
海からの風が少し冷たい。
風邪をひいてしまうかも知れんな。
もう少しこのままでもいたい。
ふとそう思ったが、それで風邪をひかせるわけにもいかない。
そっとの肩を揺さぶり眠りを覚ます。
「ほら、もう帰るぞ」
「う〜ん・・・。あと5分・・・」
「目を覚ませ。風邪ひくぞ」
何度か揺さぶったらやっと目を覚まして。
「アレ??まだ夜じゃない・・・」
「もう夜なんだ」
完全に寝ぼけているの頬を軽く叩いて、もう一度目を覚まさせる。
「起きたか??」
「・・・たぶん」
まだ半分夢の中にいるを立たせる。
ズボンについた砂を掃ってやると、また座り込もうとした。
「ほら。立てって」
「眠たい・・・」
「・・・しょーがないやつだな」
まだ座り込んで眠ろうとするを抱えあげる。
いわゆるお姫様だっこってやつだ。
初めてこれしてやった時、バカみたいに喜んでたもんな。
その時、ふとが目を開けて。
「ふふvお姫様みたいvv」
「じゃあ、俺は王子様か??」
王子様なんてガラではないが。
すると、は真剣に考え込んで。
「・・・微妙」
・・・失礼なやつだな。
お世辞でも言ってくれればいいのに。
言うだけ言って、は再び目を閉じて寝息をたてはじめた。
まるで子供みたいだ。
でも妙に大人びた所があって。
俺から見たらそれが本当に不思議で。
だからお前に惹かれるのだろうか。
「・・・愛してる」
もう一度確認するように呟いて。
静かに眠るその唇にそっと唇を重ねた。
<THE END>