今日もいつもの白羊宮。

でもいつもと違う。



「もう勝手にしなさい!」
「いいもん、勝手にする!!」

それと同時に響くドアを閉める音。
その勢いよく閉まったドアを見つめムウは一人ため息をついた。

「何でわかってもらえないのだろう・・・」

今出て行ったのは彼の想い人、
せっかちで、短気で、子供っぽくて。
とてもムウと同じ年には見えない。
でもそこが大好きで大好きでたまらないはずなのに、最近つまらないことで喧嘩ばかりしている。

実は今日もどちらが食事を作るかと言うことで喧嘩したのだが。


普段は周りがビックリするほどの冷静沈着ぶりを見せるムウも、が相手になると、180度ひっくり返ったような性格になってしまう。
彼女のことを心配するあまり、ついつい自分の気持ちを押し付けてしまう。

それを頭でわかってはいてもどうしても止められない。


ムウはもう一度大きなため息をつくと、を探しに外に出た。










真昼の聖域は冗談抜きで熱い。
こと、この青緑の季節になると尚更。

「こんな熱い中どこにいるんでしょうね・・・」

その微かな小宇宙を辿りつつ、着いた先はの家。
中からはなんともご機嫌な笑い声が聞こえてくる。

そこにはムウの知った小宇宙も感じられて。

「私がこんなに落ち込んでいるのに、楽しくお食事ですか・・・」

そう呟くとムウはの家を後にした。
さっきまで抱いていた気持ちを押し込めて。









「ん?」
「どうかした、アイオリア」
「いや、今微かにムウの小宇宙を感じたのだが・・・」
「まさか。あの人が来るわけないじゃない」

先程、喧嘩の経緯を聞いたアイオリアは呆れ半分同情半分で、の小言を聞いていた。

「何でそんなに喧嘩が絶えないんだ?」

普段はビックリするほど仲がいいのにな、そう付け足して、が作ったパスタをつつく。

「・・・何でだろう」
「おいおい・・・」

自分もパスタをつついては今日もことを思い出す。

つい1時間前のこと。

白羊宮に出向いたは昼食を自分が作ると言ったのだ。
普段、白羊宮でする食事はムウがやっているので、たまにはと思って。
それにムウも喜んでくれるだろうと。

しかし、彼の答えはNO。
問い詰めても、「危ないから」の一点張り。


何がなんでも作ると言うと阻止しようとするムウの言い争いはついに大喧嘩にまで発展したというわけである。

「そんなつまんないことで喧嘩するなよ・・・」

アイオリアは呆れた顔でそう言った。

そんなにつまらないことなのか?
・・・つまらないことである。

とりあえず、怒りを収めつつ通りすがりのアイオリアを食事に誘った。
しかし、話を聞いたとたんアイオリアは大きなため息。

「俺はムウの気持ち、わからなくもないぞ」
「何で?!どこが??」
「だって好きな人の料理食べたい半分、ケガしたらどうしようって思うだろ」
「そんなこと思わないよ」
「大抵の男はそう思ってるんだよ」
「ムウはそこら辺の男とは違うもん」

は褒めているのかけなしているのか微妙な言葉を言う。
その言葉にアイオリアは苦笑しながら。

「ごちそうさん。早く仲直りしろよ」

そう言っての頭をポンポン叩くと帰ってしまった。

「仲直りって・・・」

は暫く考えていたが、やがて勢いよく家を飛び出して行った。









「ムウ〜〜!!」

白羊宮にあるムウの私室のドアを叩く。
中から返事が聞こえ、扉がゆっくり開かれる。

「何か御用ですか」
「あのね、やっぱりあたしが悪かったって思って謝りに来たの」

素直に謝るのが一番だと思っては頭を下げる。

それを見ていたムウは少し息をはいて。

「それならもういいのです」
「え、でもムウ怒ってたでしょ?」
「だからもういいと言うのです」
「だから何で?」

ムウはその言葉にすっと息を吐くと。

「だってアイオリアと仲良く食事をしていたではありませんか」

ムウはその言葉を言ってから後悔した。
そんなことを言うつもりではなかったのに。
いらだつ気持ちを抑え切れなくて。

一方、その言葉を聞いたは唇をかみ締めて。
その瞳に涙を溜めると。


パシッ!


乾いた音を響かせ、呆然としたムウを残してそこから走り去った。











数分後。

叩かれた頬をさすりながらムウはを探していた。
こんなものなど黄金聖闘士の自分には痛くもないはずなのに。
なぜかそこは熱をもってじんじん痺れを伝えてくる。



木陰で小さく座り込んでる人物に向かって声をかける。
しかし彼女は答えてくれず。



もう一度名前を呼ぶ。

「何しに来たのよ」
「迎えに来たんです」

一向にこちらを向かないをムウは後ろからそっと抱きしめる。

「私が軽はずみでした。あんなことを言ってしまうなんて」
「わかってて言ったんでしょ。いつも冷静だし」
「そうじゃありませんよ。少なくとも貴女の前では」

少し腕に力を込めて。

「でも・・・」
「何も言わないで・・・」

ムウはの髪にそっと髪を埋める。
そして首筋に唇を落として。

「本当にすみません。私が悪かった」
「ううん。あたしも意地はっちゃったから・・・」

そう言って振り向いたの顔はいつものように笑顔で。
それにつられてムウも笑顔を返す。
はその顔に赤くなっているところを見つけて。

「ぶってごめんね」

はそう言うとそこに口づけた。
それに答えるようにムウがの頬に口付けて。

「じゃ、戻りますか」
「うん。ねぇ、ご飯作ってもいい?」
「ダメです」
「えーーー!何でーーー?!」
「危ないって言ったでしょう。怪我して欲しくはないのです」
「でも・・・。あ」

急に口を閉じたをいぶかしげに見る。

「どうかしたのですか?」
「ううん。やっぱりムウが作って」
「・・・そうですか」

そうして、二人で腕を組んで歩き出す。
いつものように仲良く。

「ところで」
「何?」
「アイオリアと一緒に食べたんじゃないですか?」
「うん。だから食後のデザート♪」
「・・・あぁ、そうですね」



仲良く二人が向かう先はいつもの白羊宮。
笑顔の絶えない白羊宮。




後日、アイオリアがムウになんやら言われたらしいが。
ま、それは色々あったということで。


<THE END>