「誕生日おめでとう!」


九月十九日午前〇時を少し回った時。

突然夜中に現れた訪問者に処女宮の主、シャカは眉をひそめた。

「なんだね、こんな時間に」
「だって今日はシャカの誕生日でしょ?」

窓から差し込む月明かりに照らされてが笑った。

「一番最初におめでとうって言いたかったの」
「そうか。その心遣いはありがたい。しかし聖域がいくら安全とはいえ、女性がこんな夜中に歩き回るのは感心せんな」

そっけなく答えられては少し頬を膨らませて。

「でも誕生日くらいいいじゃない」

それにシャカは顔色を変えることなく。

「明るくなってから出直すんだな。とにかく今は帰りたまえ」

さっさと言い放つと窓を閉めてしまった。



それから数時間、すでに太陽が地平線から顔を出した後、またしても処女宮に現われた者があった。言うまでもなくである。

「あ、あれ?」

シャカが確実に起きている時間を考えて出向いたは、そこに主の姿がないことを見て唖然とした。

「朝になってから出直して来いっていったくせに……」

とりあえず、呼びかけても答えないところを見るといないのだろう。はため息を一つつくと、処女宮を後にした。単なる行き違いか。そう考えながら。



「シャカ? 見てないなあ」

その日の夕方。たまたま会ったアイオリアに聞いてみたものの、今日一日、シャカの姿は見ていないらしい。

「そういえばパーティーも一日ずらしたとか聞いたし、何か用事でもあんのかな?」
「え? パーティー明日なのか?」
「アイオリア知らなかったの?」

今日、デスマスクから仕入れた情報と交換しては家へと向かう。

「ほんと、どこ行っちゃったんだろう……」

家への帰り道もどこかにいないかと、探してみたものの、結局シャカの姿を見ることもなく、夜も更けてしまった。考えるの上にどっしりと黒いものが覆いかぶさる。
もしかして避けられてる? いいや、そんなことはないだろう。のしかかるものを払うように軽く頭を振り、は自室への階段を昇りだす。

「大丈夫。もうちょっとしたら帰ってくるわ」



「シャカ〜。いないの〜? 返事して〜」

夜、十二時前。やはり諦め切れなくて処女宮の窓を叩いたは、中から信じられない声を聞いた。
それは笑い声。しかも大笑いしている。明らかにシャカのものだと思われる笑い声だった。

「シ、シャカ?」

窓を叩く手を思わず止めて中の人物に話しかける。すると、さっと窓が開いて。

「待っていたぞ、
「は?」

まぬけな声を出したを抱えると軽々と窓をくぐらせてしまった。

「待ってたってどういうこと?」
「そのままだ。それにしても今日一日私を探していたようだが?」

はっと気づいて、は今日のことを話し出した。

「でも結局、見つけられなくてね……」

しょんぼりとしたの髪を梳いて。

「そうか?私はずっと処女宮にいたぞ?」
「ええっ! 嘘ッ!?」
「嘘ではない」
「じゃあなんで返事してくれなかったの?」
「さあ、気づかなかったのではないかな?」

まるで他人事のようにさらっと言い放つ。でもその顔は明らかに楽しんでいる顔で。

「知ってて黙ってたでしょ?」
「さあな」

どれだけ聞いても答えてくれないのは明白で、諦めたは気を取り直して、正座をして。

「では改めまして」

シャカの方に向き直って。

「お誕生日、おめでとうございます」

深々と頭を下げると顔を上げて笑った。

「うむ。どうもありがとう」

相変わらず尊大な態度のまま、それでも礼を言う姿は、ほかの人間からしたら想像もつかない姿だろう。その姿が見られるのはもちろんだけ。
もちろんそれには深い深い意味があるのだが、がそれに気づくのはもう少し、後のこと。



Happy Birthday

この世に生を受けた日を
ずっとずっと祝って欲しいから

一日の初めと終わりにこの呪文を

大切な君に伝えて欲しい



Happy Birthday to SHAKA!


<THE END>