幸せな時のキスの味。
喧嘩した時のキスの味。
全部ひっくるめてキスの味。
でも違う味だって君は知ってる?
「もう、ふくれるのヤメなよ?」
「だってさ……」
が横で小さくため息をつく。それでもなんだか悔しい気持ちでいっぱいで。
「はどう思ってるのさ?」
「どう思ってるって?」
「俺のこと」
「ん〜? 大好き!」
はそうやってにっこり笑ってくれる。でも、それだけじゃ足りなくて。
「好きとか愛してるってさ、誰でも言えるだろ? でも、それだけじゃ嫌なんだ」
「どういうこと?」
「こう俺が『愛されてるなァ』って感じれるような……」
その時の表情が変わって。
「私のこと信じられないってこと?」
そういった顔がすごくかなしそうで。
ああ、どうして俺ってこうなんだろ。こうやっていつものこと困らせて。
でもな、他のヤツとあんなに楽しそうにしてるとこ見ちゃったら、『俺ってお前の何?』ってちょっとは思わないか?
だけどはそれを一笑に付して。
それでこんな険悪状態。
「ねえ、ちゃんと答えてよ」
「うん」
「私のこと信じられない?」
「ううん。すっごく信じてるよ」
「じゃ、何でそんなこととか言うの?」
「だってさ……」
すごくわかる。は俺を怒らせないように優しく言ってる。きっとすごく怒ってたり傷ついている時も。
でもいつものそんな態度が余計つらかったりして。
「なあ、は嫌じゃないのか?」
「何が?」
「自分の感情抑えていつも俺のこと気にかけてるじゃないか。それってしんどくないか?」
いつになく真剣に言ったんだ。そしたら。
クスクス。
軽やかに。
「なあ、何がおかしいの?」
「だっておかしいよ」
「どこが?」
「そんなこと気にしてるとこが」
そう言って俺の髪をくしゃくしゃ撫でて。
「嫌いだったりどうも思ってなかったらね、私は何にも気にしないよ?」
「どういうこと?」
「ミロのこと好きだから気にかけるし、なるべくミロの好きにしてあげたいの」
「でもそれって自分のワガママ言えないじゃないか」
そこには反論しながらも嬉しい気持ちでいっぱいの俺がいた。
そんな俺の気持ちを見透かしたようには俺の頬に軽くキスをくれて。
「じゃあ、ワガママ言ってもいいの?」
「もちろんだよ」
「じゃあね、ずっと私の側にいて」
「え?」
「だからそれが私のワガママなの」
時間が、止まったかと思った。
「――そんだけ?」
「そんだけって結構難しいよ?」
「簡単だよ!」
「だって、私が死ぬまでずっと何があってもなのよ?」
聖闘士には難しいんじゃない?そう少し不思議な表情で言って。
「大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「うん。本当」
そう言って指きりしようとしたら。
「ここにして」
そう言っては唇を指差した。
チュッ。
そう音をたてて誓いを刻む。
「ちゃんとも側にいなきゃダメなんだぞ?」
「もちろんよ」
「俺のこと愛してる?」
「愛してるわ」
その『愛してる』はさっきのよりずっと重くて。俺の胸にわだかまっていたモヤモヤはすっと晴れていってしまった。
「疑ってごめんな?」
「いいのよ」
「本当に?」
「本当に」
そう言ってもう一回キスを交わす。
そのキスは今までした中でも甘くて、そしてちょっぴり爽やかなミントの味がした。
<THE END>