紫紺へと色を変えた頭上には、星がちかちかと瞬いていた。
七月七日。晴れ渡った空を見上げ、四つの瞳がふいに輝いた。
「よかったねえ。きれいに晴れて」
「まったくじゃ。またこうして酒を酌み交わすのもよいものじゃな」
異国の空の下、酒を酌み交わす東洋人が二人。星を愛でるために集まったというのに、その視線の注がれるのは星空だけではないらしい。
「ほら、この笹もち食べてみてよ。すんごいおいしいんだから」
固い葉に覆われた菓子をから受け取り、童虎は軽く口の中へと放り込む。自分の生まれた国にはなかったものだが、こうして食べてみると、なるほど茶でも酒でも合ってなかなかうまい。
「うまいのう。これはが作ったのか?」
わかっていながら聞いてきた童虎には笑い声を立てた。もちろん、否定の意味を込めて、だ。
「おぬしもこれぐらいできるようになるといいんじゃがのう……」
何がおかしかったのか笑い続けるにぽつりとそう呟くと、童虎は手元の盃に酒を注ごうとした。すると、ふいにの手がそれを止め、彼の手から易々と銚子を奪い取る。
「まあまあ。一人でお酌だなんて。私がいるのに?」
「――ふむ。美女の手を煩わせてはいかんと思ったんじゃが」
「ええっ!? やっぱり童虎もそう思う?」
銚子を手に持ったままにんまりと笑ったに酒の催促をする。
「まあ、わしは美女よりも酒、という性質なんじゃがな」
その言葉にはいささか頬を膨らませると、彼の盃にほんの数滴程度酒を落とす。
「なんじゃ、これだけか?」
「飲みすぎはよくないのよ。よってあまりは全部私が……」
自分の盃になみなみと酒を注いだは、銚子を置くやいなや、一気にそれを飲み干す。軽くのどを鳴らせて、酒を腹の底にまで流し込むと、ふっと一口ため息をつく。
「まったく、おなごとは思えん飲みっぷりじゃな」
半ば呆れた風な童虎の声に笑顔で返す。満天の星空の下、うまい肴があって、うまい酒があって、これ以上に何を望むというのか。そんな笑顔で。
「こういう七夕もいいもんだね」
少し酔ったのか、軽く頬を赤らめて彼女が言う。
手に持った盃には童虎の手によって新たに酒が注ぎ込まれた。
「しかしのう」
ふいに空を見上げた童虎の声に、は近づけた盃を止める。
「どうかした?」
「いや、こうわしらばかりが楽しんでいても悪いと思ってな」
見上げたその先にあるのは、おそらくこの夜を一番楽しみにしているであろう、恋人たちの星。
それを見て意味に気付いたが、童虎の手を取ると、半ば無理矢理盃に酒を注いだ。
「はて。飲みすぎはよくないのではなかったかのう?」
「まあ、そう言わないで。もう一杯いかが?」
ころころと言うことの変わるに苦笑しながらも、童虎はそれに従うことにする。
「それじゃあ、一年ぶりの逢瀬を果たした二人に乾杯」
の音頭に合わせて盃を合わせる。
小さな音を立てて触れ合った盃の中、映った空の星々が光を放ちながらゆらりと揺れた。
<THE END>