5月7日、午後23時50分頃。


「さぁ、そろそろ寝るか」

金牛宮の主、アルデバランはやっと仕上がった書類のチェックを済ませ、大きく伸びを一つした。


その時。

コンコン。

誰かがドアをノックする音。
呼びかけがないという事は雑兵ではない。

「誰だ・・・。こんな時間に」

ドアの向こうに問いかけても返事はなく。


コンコン。

もう一度、ノックが繰り返されるばかり。
そっとドアに近づき、その小宇宙を感じ取る。

「アフロディーテとデスマスク、それにアイオロスまで・・・??」

そこにいるらしき人物は極力小宇宙を押さえているのか、気配は僅かにしか感じない。

「何か用か??」

そう言ってドアを開いた瞬間。


「アトミック・サンダーボルトォォォォォ!!」
「な・・・何ィ?!」

さすがのアルデバランも同じ黄金聖闘士である者の技を突然、しかも超至近距離で避けれるはずもなく。


ドゴォォォォン!!!!


そう大きな音を立てて奥の壁に叩きつけられる。

「よし、作戦成功!!」
「ケガさせたら意味ねぇだろ。やっぱ俺の力で黄泉比良坂に・・・」
「何を言ってるんだ。やはり私の魔宮薔薇で・・・」


「お前たち、いい加減にしろ。」
「「「シュラ!!!」」」

3人が一斉に振り向くと、そこには半ば呆れるようにしてシュラが立っていた。

「気絶させてどうするんだ、馬鹿者」
「「やったのはアイオロスだ」」
「おい、やれっていったのお前たちだろ?!」
「問答無用!」


ゴスッ。

「何するんだよ、痛いじゃないか!」
「そそのかされたお前が悪い」
「「お前が悪い」」
「お前たちも一緒だ。覚悟しておけ」
「ふん、ざまぁ見ろ」
「何だと?!この馬野郎!!」
「やるのか?!この蟹道楽め!!」
「ちょっと二人とも・・・・」

シュラの顔つきが変わったのに気づいたアフロディーテが二人を諭す、が。

「貴様ら・・・。そんなに刺身になりたいのか」
「す・・・すみません」

シュラの異様な迫力についつい謝ってしまうアイオロスとデスマスク。

「だから言ったじゃないか」
「お前もさっさとアルデバランを運ばんか」
「はいはい」

シュラに睨まれてアフロディーテは、しぶしぶ気絶したままのアルデバランを担ぐ。

「ほら、急ぐぞ」
「「おう」」

まだ少しむくれているアイオロスとデスマスク、シュラは自分の1.5倍は重いアルデバランを飄々と運ぶアフロディーテの後に続いた。








「ほう。それで気絶させたわけですか」

ここは天秤宮の一室。
そこにいるのは、アテナもびっくりするほどの笑顔をたたえているのはムウ。
しかしその眼は笑ってはいない。

「しょうがないだろ、デスマスクが言ったんだから」
「ノリ気でやったのはアイオロスだ」
「どちらでも構いません。
 私はただアルデバランをここに連れてくるように言っただけですよ」
「そこら辺にしておけ、ムウよ」
「しかし・・・」

「もう日が変わるぞ」
「・・・わかりました」

顔をのぞかせた童虎に諭されて、ムウは部屋を後にする。

「お前らも少し悪戯がすぎたようじゃな」
「「すみません」」

小さくなったアイオロスとデスマスクはまるで子供のようで。
261歳からしたら23歳と27歳は子供同然なのだが。


3人が私室から出てきた時ちょうど、火時計に一斉に灯がともる。
聖域に今日も新しい一日が訪れた。

「アルデバランはまだ起きんのか」
「そろそろ起きそうなんだが・・・」
「やっぱり、気絶させたのはマズいよな」
「・・・兄さんのせいかな」
「気にすんなよ、アイオリア」

皆口々にアルデバランの心配をしている。
若干2名ほどはわからんが。
その時。

「むっ。アルデバランが目覚めるぞ!!」

シャカのその声に皆が一斉にアルデバランを覗き込むとアルデバランの瞼が少し動いた。

「う・・・、俺は・・・」

眼を開いて体を起こしたアルデバランの周りで歓声があがる。

「皆、集まって何を・・・??」

まだ状況が飲み込めていないアルデバランがそう問いかけると。

「ようやく目覚めたか、では始めるぞ」
「きょ・・・教皇・・・??」
「皆お前が目覚めるのを待っておったのだ」
「待っていたとは・・・??」

しかし、シオンはその言葉を待たずして奥へと歩を進める。
他の黄金聖闘士も皆それに続いて。

とりあえずアルデバランもその後に続き、大広間に出る。
ふと、皆がアルデバランの方を向いた。
そして。

「アルデバラン、誕生日おめでとう!!」

クラッカーの鳴る音が響き、照明が点けられた広間には所狭しと酒やら料理が並んでいる。

「た・・・誕生日??」
「今日は貴方の誕生日でしょう」
「もしかして忘れてたのか??」
「俺なんか一ヶ月前から気にしてるぞ」
「お前とアルデバランを一緒にするな」

ミロの言葉にカミュがさり気なく突っこみ、それに皆が笑う。
はじめはあっけに取られていたアルデバランもいつもの豪快な笑い声を響かせた。

「では始めるとするか」

ボトルを手に持ったシオンがアルデバランのグラスに琥珀色の液体を注ぎ込む。

「あ、すみません」
「構わん。お主の誕生日だからな」

溢れんばかりにグラスに酒を注いで、手に持っていたグラスを高々と持ち上げると。

「誇り高き金の猛牛、アルデバランの誕生を祝って乾杯!」

「乾杯!!!」

そこここで、グラスを合わせる音が響き、皆が一気に飲み干す。

「今宵は無礼講だ。皆楽しむがよい」
「お前は自分が『無礼講』なんじゃろ??」
「なんだと?!童虎、貴様もではないか!!」
「まったく、祝いの席でそのようなことおやめください」

からかった童虎にシオンが牙を剥こうとする所にサガが止めに入る。
どうやら幹事にされたらしい。

「おい!みんなちゃんと持ってきたんだろうな??」

デスマスクが声をかけると、皆がごそごそとそこら辺を探る。

「ま・・・まだ何かあるのか??」
「誕生日にお決まりのモンがあるだろ??」

デスマスクがそう言うとムウがアルデバランの前までやってきた。

「アルデバラン、おめでとうございます。
 最近寝つきが悪いと利いていたので、これを」
そう言って差し出されたのは大きな包み。

「これは??」
「まぁ、開けてみてください」

包装紙をとくと、中から大人が3人は寝れるような大きな羽毛布団が出てきた。

「この間、日本に行った時に買って来たのです」
「すまんな。ありがとう」
「次は私だ」

サガがカノンを連れてきた。

「二人で考えたのだが、なかなか決まらなくてな」
「んで、考えた結果これにした」

そこには少し小さめの箱。
そっと開けると、中には輝く紳士物の時計。

「これはかなり高価ではなかったのか」
「よいのだ。お前に似合うようなシンプルで、それでいて・・・」
「兄貴の長い話はカットだ、カット。使ってくれよな」
「あぁ、大切にしよう」
「サガとカノンには負けねぇぜ!」

デスマスクが声をあげると、
ミロ、アイオロス、シュラ、アフロディーテ、カミュ、アイオリアがやってきた。

「さ、アルデバラン行こうぜ」
「どこにだ??」
「老師。ちょっと部屋をお借りします」
「構わんぞ。勝手に使ってくれ」

7人に引きずられるようにしてアルデバランは別室に消えていった。





5分後。


「じゃーーーん!!」

姿を現したアルデバランに皆が眼を丸くする。
その体にはしっかりとしたスーツをまとっており、仄かに香水の香りもする。

ただその姿を見つめるほかの黄金聖闘士たちの前でデスマスクとミロがマイクを持つフリをする。

「「名づけて『イイ男5点セット』だ!!」」
「まずはスーツ!!」
「アルマーニのスーツだ!!」
「もちろんオーダーメイド!」
「お値段は想像にお任せしまーす」

ジャケットを持ち上げミロがひらひらさせる。

「次はシャツとネクタイ!」

アイオロスとアイオリアが前に出る。

「純ギリシャ産の高級綿花だけで作られたシャツだ」
「それに職人が一本づつ手作りしているシルクのネクタイ!」
「なるべくスーツに合わせてチョイスしたんだ」

濃紺に少し緑の入ったのスーツに合わせて見ると落ち着いた黄色のシャツと、同じく濃紺にオフホワイトの刺繍が入ったネクタイはなじんでいるようで、しかしその存在を主張していて。

「お前たちのセンスの良さには本当に驚くな」

アルデバランが感嘆の声を漏らす。

「俺たちが本気を出せばこんなもんさ」

軽くウインクをしてミロがアルデバランの肩を叩く。

「次はシュラだな」
「あぁ、これを」

そう言ってシュラが指差したのは黒い皮靴。
丁寧に作られているのか縫い目の一つ一つまでが整っている。

「これは、牛革か??少し光沢が違う感じがするが・・・」

カノンが眼を凝らして尋ねる。

「残念。キッド(子山羊の皮)だ」
「シュラが家で飼ってる子山羊を泣く泣く・・・」
「・・・そんなわけないだろう」

ふざけるアイオロスを一蹴すると、シュラはアルデバランに向かって。

「イギリスの靴職人に頼んで作ってもらった。ぜひ使ってくれ」
「すまないな。それにしても何故サイズまで・・・」
「すまん。お前が寝ている間に測らせてもらった」

シュラが金牛宮の寝室でこっそり
アルデバランの足のサイズを測っている所を想像して何人かが噴出す。

「靴を盗むわけにもいかんし、しょうがないだろう!!」

少し顔を赤くして応戦するシュラを押しのけて、カミュとアフロディーテが小さな小瓶を持って現れる。

「いい服を着るにはそれなりに身だしなみにも気をつけないとね」
「アフロディーテは甘い香りばかり選んでな」
「でもちゃんと変えたじゃないか」
「鼻がおかしくなるまで嗅いでからだろう」
「もうッ・・・。結局、さっぱりした香りにしたんだ」

そっと蓋を開けてあたりに一噴き。
爽やかな香りが部屋中に広がる。

「海と風をモチーフに調合してもらったんだ」
「この程度なら大丈夫だろう」
「あぁ、いい香りだ。ぜひ使わせてもらおう」

アルデバランが礼を言うとその小瓶を手渡してそれぞれの席につく。

「つーわけで、これが俺らからのプレゼントだ」
「デートにぴったり!今夜、私のハートは貴方のもvのvv」
「もう何でも好きにしてvv」

ミロとデスマスクがポーズを取ると周りから笑いが起こる。

「じゃ、次は誰だァ??」
「私が渡そう」

シャカがすっと席を立ちアルデバランのところに行く。

「なぁ、シャカって何渡すんだろうな」
「・・・想像つかねぇな」

自分の席に戻ったミロとデスマスクがこそこそ話していると。

「これを。以前約束していたものだ」
「あぁ。ありがとう」

アルデバランが受け取ったのはどうやら本のようなもので。

「なんだそれ??」

アイオリアが尋ねるとシャカはふっと笑って。

「以前、アルデバランに約束していた書物だ」
「あぁ。仏教の教えについての本を数種類な」
「そんなもの読むのかよ?!」

デスマスクがすかさず口を挟む。

「興味が湧いたので、頼んでいたのだ。
 俺はどんなものがいいかわからんからな」
「その通りだ。君とは違ってアルデバランは書物を愛しているからな」
「・・・この野郎」

今にもキレそうなデスマスクをアフロディーテがたしなめる。
その横でミロがぽつりと。

「新手の宗教勧誘かと思ったぜ・・・」
「汚れた心を持つ君にはピッタリではないのか??」
「・・・ムカつく」
「まぁまぁ。落ち着かんか。次はわしじゃ」

すでにミロまでキレそうなヤバい雰囲気を童虎が和らげた。

「プレゼントというわけではないのだが、いい茶葉を手に入れた。
 後で淹れてやろう」
「それはありがたい。ご馳走になります」
「いいのじゃ。中国の奥地まで探しに行っただけじゃからな」
「それは、かたじけない」
「・・・ちゃっかり主張しておるではないか」

童虎の言葉にシオンが突っこむ。
しかし、童虎は気にした風もなく席についた。

「最後は私か・・・」

シオンが立ち上がると、そういい残して奥の部屋に入っていった。

「教皇はどこに行ったんだ??」
「さぁ・・・」

皆がざわめいたその時。
シオンが見覚えのある箱を持って現れた。
それは紛れもなく、牡牛座のパンドラボックス。

それをアルデバランの前に置くとさっさと席についてしまった。

「開けてみるがよい」
「は・・・はい」

アルデバランが恐る恐る箱を開けると、その中には牡牛座の黄金聖衣があった。
しかし、いつもと何かが違う。

そこにいた全員が覗き込み、次の瞬間息をのんだ。

「角が・・・」
「2本ある・・・」

彼らが目にした黄金聖衣は
星矢たちとの戦いの後なかったはずの角がついていた。

「教皇・・・。これは・・・」
「バカ弟子がなかなか直さんのでな、私が直しておいたのだ」
「しかし、パーツが余りにも足らなくて無理だとムウが・・・!!」

アルデバランが修理できなかったことを告げるとシオンは笑って。

「だから同じ黄金聖衣から削り取ったのだ」
「な・・・なんですと?!」

思わず声をあげたアルデバランをたしなめつつ。

「安心せい。ほんの少し薄く削っただけだ。アテナと他の者にも了承は得ておる」
「では、先日の聖衣の点検とは・・・」
「もちろんこのための口実だ」
「しかし、そんな少量では・・・」
「後はオリハルコンやらを混ぜ合わせて継ぎ足したのだ」

アルデバランが唖然とする中、シオンは酒をくいっと飲み干して。

「アルデバランよ」
「・・・はッ!」
「それは他の黄金聖闘士たちがおってこそ出来た物だ。大切にするのだぞ」
「はい」
「そして仲間がおることへの感謝を忘れるでない。よいか」
「畏まりました・・・」

そう言って顔を上げたアルデバランの目にはうっすら涙が浮かんでいて。

「ありがとう、みんな・・・」

そう言って仲間たちの顔を見回す。
少しテレた顔をした者や、温かく見守る者などいろんな顔に溢れている。

「本当になんと礼を言ったらよいのか・・・」

目尻に浮かんできた雫を乱暴にぬぐって。

「こんな言葉では足りんが・・・。本当にありがとう・・・」

頭を下げたままのアルデバランの肩を童虎がそっと叩いて。

「今日は無礼講だとシオンも言ったであろう」
「はい・・・」
「さ、席に戻って祝いの続きをしよう」

サガに背中を押されて席に戻る。
その目の前に置かれたグラスにシオンがまた酒を注ぐ。

「貴方にはいつも笑っていて欲しいのですよ」
「ほら泣くなって」
「気にすんなよ、ちょっとした気持ちだよ」
「黄金聖闘士たるもの、易々と泣くものではない」

皆が声をかける。
それに少し赤くなった目で笑顔をつくると。

「では、次はアルデバランに音頭でも取ってもらおうか」
「そりゃ、いいや!いーこというじゃないか、妖怪じじい!!」
「誰が妖怪だと?!」
「無礼講なんだろ?!」
「それとこれは違うわ!馬鹿者!!」

「二人とも大人気ない・・・」

サガがまた頭を抱えている。
気のせいだか、毛先が微妙に黒い。
デスマスクとシオンはまだなんだかんだと言っている。

「さ、アルデバラン。早くやっちゃってよ」

アフロディーテに言われてグラスを掲げる。


「では皆、グラスを」


その声に全員がグラスを掲げる。

もう一度仲間の顔を見回す。

そこにいる皆の顔に笑顔があって。
皆が皆、自分を助けてくれる人たちで。


こんな素晴らしい仲間を持てたことにアルデバランは感謝をした。



こんな仲間だからこそ、これからもずっと共に。

そんな祈りを込めて。





「乾杯!!!」


<THE END>