いつもと変わらない双児宮の朝。

でも今日は少し特別な日で。

「ふわぁぁぁぁ〜」

そこら辺の空気が全部なくなるんじゃないかと思うほどでかいあくびを一つして、カノンはよっ、と一声、ベッドから跳ね上がった。

いつもより1時間も早い起床。
サガはまだ夢の中にいるはずだ。


今日は5月30日。
サガとカノンの誕生日である。

何をプレゼントしようかと数日前から悩んでいたカノンに助言をしたのはデスマスクとアフロディーテ。
まぁ、カノンがサガにプレゼントを贈ると言った時点でビックリしていたのだが。

『お前だって料理ぐらい作れるんだろ』
『だったらサガに朝ごはんでも作ってやったらいいじゃないか』

普段いつもサガが朝ごはんを作っていることは聖域の『もはや常識!』なので、カノンにうってつけのものではないのかということだ。

それに納得したカノンは早速その計画に着手した・・・のだが。




「サガ・・・。何してんだ・・・??」

カノンがキッチンに入って の一声。
そこには冷蔵庫の中をごそごそ探るサガの姿があった。

その声に気付いたサガはいつもの笑顔を見せる。

「おはよう、カノン」
「おはよ・・・ってこんな朝早くにどうしたんだ??」
「朝食を作ろうと思ってな。それよりお前こそ珍しいじゃないか」

いつもは起こしても起きないカノンが一人で、しかもこんな朝早くに起きている事実にサガは少し驚いて。

しかし次にカノンが呟いた言葉にサガの顔色が変わった。

「・・・なんで早起きしてんだよ」
「何?!」
「何で俺が早く起きた時に限ってお前まで起きてんだ!!」
「何だと?!
 お前もしかして良からぬことをするために起きたのではないだろうな?!」

すでに二人はいつもの臨戦態勢。
その格好はかたや裸にガウン、かたやTシャツにトランクスというなんともおかしな光景ではあるのだが。

「さぁ、吐けカノン!お前は何をしに早く起きたのだ!!」
「俺は・・・(サガに)朝飯作るために起きたんだよ!!」
「な・・・何・・・??」

ちなみに()内は言っていないのであしからず。

しかし、その言葉を聞いたサガは初めこそ驚いていたものの、すぐに満面の笑みに滝涙を流して。
どうやら弟に自立心が芽生えたのだと思って感動しているらしい。

弟が自立していないのは自分にも責任があると思っているからなのだが。
しかもそれは正解だったりする。

そんなことをほったらかして、今、サガは心の底から感動していた。

「カノン・・・。私は兄として・・・本当に嬉しいぞ・・・!!」

だらだら涙を流して微妙に鼻水も出かかりつつ、サガはカノンに抱きついた。
それを避けられずされるがままになっているカノンを抱きしめサガは続ける。

「ようやくお前も朝ごはんを作ろうと思いだしたのだな!
 兄は・・・このサガは・・・」
「あ・・・あの〜・・・」
「嗚呼!今日は何と素晴らしい日なのだ!!」
「おい、ちょっとま・・・」

しかし、言いかけたカノンの言葉はサガの突然の行動に遮られる。
サガがカノンの肩を掴みガクガク揺さぶったのだ。

もちろん彼は黄金聖闘士なので、普通の人間がされたら失神モノ。
だが、カノンは黄金聖闘士と海将軍の意地にかけて耐え抜いた。



サガはひとしきりガクガクすると、滝涙顔のままカノンに迫った。

「カノン・・・!それでは朝ごはんはお前に任せてよいのだな?!」
「あ・・・あぁ・・・」
「その言葉に偽りはないな?!違っていたらJ●ROに通報するからな!!」
「だ・・・大丈夫だ」

マズイもんを作ったら即刻JA●Oに通報されると判断したカノンは決心した。
自分の腕によりをかけて調理しなければならないと。

そしてその言葉を受け取ったサガはぼたぼた涙を零しながらオペラ歌手のようになんとも変な歌を歌いつつ、寝室へと消えていった。


「我が兄ながら、なんて危険な男だ・・・」

サガが寝室に消えたのを確認してカノンは呟く。
恐らくさっきの行為によって、カノンの肩にはサガの手形にあざがついているだろう。

気になったカノンはふと、Tシャツの襟を持ち上げて肩を見る。
そこにはくっきりとサガの手形に沿って青くなっているあざがあった。

「ジョーになった気分だ・・・」

某有名漫画の主人公の気分に少しだけ浸って、カノンは冷蔵庫を開けた。





それから30分後。

さっきのキッチンにはカノンは作ったサラダとパン、軽い料理とコーヒー、そして滝涙を流したサガがテーブルにセットされていた。

「泣いてないで早く食べたらどうだ??」

自分の作った料理を口に運びながらカノンがそう言うと、サガはようやくフォークを握りウィンナーとキャベツの卵とじを口にした。

「・・・うまい」

それだけ呟くとサガは一心不乱に料理を食べ始めた。
その時間わずか5分。
最後にコーヒーを喉に流し込むとサガは満足そうに微笑んで。

「ありがとうカノン。本当においしかったよ」
「いや。満足したか??」
「あぁ、自分で作ったのより断然うまかった」
「よかった」

これでJ●ROに通報されずに済むとカノンは内心ホッとしていた。
それ以上に自分の作った料理を喜んで食べてもらえたのが嬉しい反面なぜか気恥ずかしくなって。

「ほら、後片付けするからあっちいってろ」

そう言ってまた涙を流そうとするサガを追い払うと、テーブルの上の物を流しへと運んでいった。







その夜。

朝食への感謝とプレゼントの意味を込めて、レストランのフルコース顔負けの多国籍料理がサガの手によって作られた。









5月31日、朝7時半。

「起きんかバカ者!!」
「うっせー!休みなんだからもうちょっと寝かせろ!!」
「許さん!そんなだらけた生活が生活習慣病を招くのだぞ!!」
「うっせーつってんのが聞こえねーのかよ!!」

いつものように朝からバトる双子(29歳?)
これが本来の双児宮の朝である。

「貴様!昨日から朝食を自分で作るのではなかったのか!!」
「あれは昨日だけだ!!」
「何だと?!」
「あれがお前への誕生日プレゼントだったんだよ!!」
「な・・・!!」

その言葉にサガは硬直して、昨日の朝のことを思い出してみる。
確かにカノンがあんなことをするのを見たことがなかった。

その理由に納得すると、サガは少し怒りを沈めて、そっと布団に包まる弟の頭に手をかけた。

「改めて礼を言うぞ。ありがとう、カノン」
「わかりゃーいんだよ」

布団からちろっと顔をのぞかせたカノンにサガは微笑んで。

「だが」
「・・・は?」

サガの顔がみるみるいつもの般若に戻って。

「それとこれは別だ!さっさと起きろ!!」
「何でだよ!もう朝飯作んなくてもいいんだろ?!」
「朝ごはんは私が作る!!しかしここで起きんのは許さん!!」

そう言って時代劇さながらに布団をバサーーーーッ!!とめくる。

「何すんだこの変態野郎!!」
「誰が変態だ!この愚弟!!」
「誰が愚弟だ、露出狂!!」
「やかましい!!」

枕を抱えたままぎゃーぎゃーわめくカノンを一喝してベッドから引きずり出すと、サガはリビングへとどすどす歩いていく。

「一夜限りの夢だったか・・・」

サガはカノンを引きずりながら落胆と呆れの表情を浮かべると、幸せが裸足で逃げ出すほど深いため息を一つついた。


<THE END>