「ちょっと、外で飲まないか」
「へ?」

サガのやつ、急にどうしたんだ。
いつもは俺が、テラスで飲んでもうるさいくせに。

しかも手には缶ビール。
ってそれ、俺が買ってきたやつなんですケド。


「ほら、早くしないか」

サガはもうさっさと上着を羽織って、準備万端。
しょうがないから俺も慌てて外に出た。







カノンのやつ、何をグズグズしているんだ。
せっかくのビールがぬるくなってしまうではないか。

「もっとさっさと歩け」
「わかってるよ!」

後ろから少しイラついた声がする。
そういえば、幼い頃はよく私の後ろをついて来ていたな。



私より少し体が弱くて。
たまに風邪をひいて寝込んでいた。
それをいつも母さんが看病して。
それに嫉妬してカノンにいたずらを仕掛けては、母さんに怒られて。

それを父さんがかばってくれて。
カノンが逆にむくれていたな。



懐かしいあの日々。

カノンといつも一緒にいて。
このまま、一生が過ぎていくものだと思っていた。





そんなことを思っているうちに小高い丘の上についた。







まったくいつまでも自分勝手なんだよな。
小さい時からずっとそうだ。

いつも自分中心で俺の前にいて。
まぁ、サガの方が丈夫だったからわかんないでもないけど。



そーいや俺、たまに風邪ひいてたっけ。

あの時もそうだ。
俺が熱出して苦しんでるのに、ボールとかぶつけてきやがった。
そしたら母さんがかばってくれて。
サガのやつ、怒られてすごくむくれてたんだよな。

しめしめって思ってたら父さんが甘やかして。



なんかムカついてきた。

でも懐かしいよな。
あの頃は何をするにも一緒だったもんな。







「俺のビール返せ」
「はいはい」

渡そうと思って、少し手を止める。
このまま素直に渡すのも癪に障るな。

そう思った瞬間、幼い頃のいたずら心が芽生えて。


「あ−−−−−−ッ!!」


カノンの絶叫が聞こえる。
それを無視して、缶を数回振って渡してやった。

「俺のビールに何すんだよッ!」
「知らないのか?ビールは振るとおいしく飲めるのだぞ」
「んなわけないだろ!そっちよこせ!!」



カノンを横目で見ながら、栓を開ける。
喉に流し込むと、ほろ苦い液体が腹の方に落ちてゆく。

「何だ?飲まないのか?」
「飲めるわけねーだろ!」

隣りで年甲斐もなく騒いでいる。
ビールの一つや二つでこんなに騒ぐものなのか。


あまりにもうるさいので残った缶を渡してやったら、すごい勢いであっと言う間に飲み干してしまった。

その姿が昔の姿とかぶって見えて。

「カノン」
「・・・何だよ」







サガは何を考えてるんだ?
昔みたいにバカなことやったと思ったら、真面目な顔で呼びやがって。


そう思ってサガのことを見てたら急に上を向いて。


「双子座は・・・もう見えないな」
「もう5月だぜ?見えるわけないだろう」
「双子座をちゃんと見たことあるか?」

はぁ?何言ってるんだ。
どうやったらそんなに話が飛ぶんだよ。

「双子座の形、知ってるか?」
「・・・知ってるよ」
「あの形、人が二人寄り添っているように見えんか?」
「・・・そうだっけ」
「そうだ」
「ふーん」

適当に流しながら頭の中に双子座を浮かべる。

・・・そんな格好してたっけな?


「よく思い出せないけど、そんなだったかな?」
「あぁ。線が上で一つに繋がっていて、同じように下に降りていくんだ」
「だから双子なのか」
「・・・自分の守護星座の形ぐらい把握しておきなさい」

あ、やべ。説教モードだ。
って違うのか?何か上の空だぞ?

「サガ・・・?」
「二人いないと双子ではないんだよ」

サガ・・・。ついにボケちまったのか?
二人いなかったらただの子じゃないか・・・。

「どうした?私の顔に何かついてるか?」
「い・・・いや。変なこというな・・・って」
「二人いないと双子じゃない、とか?」
「・・・あぁ」


わかってて言ってたのか・・・。
もっと重症だな・・・。







「カノン」
「ん?」
「私は・・・、お前と二人で生まれてきて本当によかったと思ってるよ」
「どうしたんだ、急に・・・」
「さっきお前がよく寝込んでいた頃を思い出したんだ」

そう言うとみるみるカノンの目が見開かれて。

「・・・俺も同じこと考えてた」

その言葉を聞いて少し嬉しくなる。
やはり、どこかが一緒なのだと。


やがてカノンがぽつりと呟いた。

「小さい頃は、よく一緒に遊んだな」
「あぁ。いつも一緒だったからな」
「でもさ、時々それがイヤで何で一人じゃないんだとか思ってた」
「私もそう思ってたよ」

特にカノンが寝ていた時などは。
私がそう付け足すと、少し鼻で笑って。


「でも今はサガがいてよかったと思うよ」
「そうか」
「あぁ。一人だったらこんな風にしていることもなかったからな」
「私もだ。そう思うと今、二人でこうしているのは奇跡みたいなものだな」
「そうか?双子なんてゴマンといるじゃないか」
「でも、私とお前は一人しかいないだろう?」
「・・・そうだな。すごいことだよな」


カノンは俯いて足元の草を弄び出す。
それを静かに見ながら。

「何分の一だと思う?」
「何が?」
「私とお前が双子として生まれた確率だ」
「知らんな。サガは知ってるのか?」
「いや、私も知らん」
「何だそれ」

そう言ってカノンは草の上に寝転んだ。
それに習って同じように寝転ぶ。


「でもさ」
「ん?」
「すごい確率なんだろうな」
「あぁ、途方もない数字なのだろうな・・・」

それこそ奇跡をも超越しているのではないだろうか。


急にカノンがこちらを向く。
静かに目線を合わせると、こちらを真っ直ぐ見て。

「そろそろ誕生日だな」
「そうだな。お祝いでもしようか」
「祝うほどの歳でもないだろ」
「でも、大切な日だ」
「・・・あぁ。そうだな」







大切な日。


そう、世界で一番、大切な日。





二人が一緒に生まれた日。


二人が双子として生まれた日。








小さな奇跡が起こった日。


<THE END>