「ほら、カノン。早くしないか!」

文句をぼそぼそと言いながら着替えていたカノンの背中にサガの声がぶつかる。

「わかってるよ!さっさとやってるだろうが!」
「まあまあ、二人ともそうカリカリするなよ」

思わずけんか腰で返したカノンの横、帽子の向きを探していたアイオロスが仲裁に入る。

「今日はクリスマスイブだぞ?もっと幸せな気分で――」
「「お前は年がら年中そうだろう」」

口をそろえてそう答えた双子にアイオロスは小さく笑い声を立てた。


「それにしても本当に見分けがつかないな」

アイオロスはサンタクロースに扮したサガとカノンを見比べてそう呟いた。
それもそのはず。同じ顔をした人間が同じ衣装をまとっているのだ。
しかも、二人の体型がほぼ同じなのだから、初めて見た人にはまずどちらがどちらかわかることはあるまい。

「なんたって双子だからな」
「いや、双子でもそこまでそっくりなのは珍しいだろう」

金色の髪をまとめながらそう言ったサガにアイオロスは苦笑した。
どこか得意気に言ったサガが、彼と双子であることをいささか誇りに思っているように見て取れたからだ。

「それにしても、あいつは……」

二人に背を向けて一人で髪を結んでいたカノンを見てサガはため息をつく。
朝から不機嫌だとは思っていたが、それが準備を始めてからはいっそう不機嫌さを増している。

「カノン。どうかしたのか?」
「別にどうもしない」

そっけなく答えたカノンに「どうでもないはずがないだろう」と言いかけたが、サガはそれをそっと喉の奥へと飲み込んだ。

だいたい原因はわかっている。わかっているからこそ――。

「おい。そろそろ出かけないと」

よく通るアイオロスの声が戸口から聞こえる。
サガがふと視線を移すと、カノンはすでに袋を担いで戸口へと向かっていた。

(なかなか素直にはなれんものだ)

サガはそう思って小さくため息をつくと、自分と同じように戸口へと歩を進めた。



少し寒い風が吹く中、三人は人馬宮から下へと向かって階段を降りていく。
アイオロスがその重い空気を察したのか、おかしな話――大方が昔の話だったが――を投げかけるが、サガもカノンも軽く返事をするものの心はここに在らずといった感じで。

「そういえばクリスマスなんて13年ぶりだな」

ふいにそう言ったアイオロスの顔に4つの青い瞳が向けられた。

「そういえばそうだな」

サガが思い出したように呟く。
長い長い13年間を経てここにいる三人はそれぞれの思いこそあるものの、今は昔以上に友情を暖めあっている。
しかし、過去は消えないものだということもわかっている。

「クリスマスなど、本当に久しぶりだな」

そこまで言ってサガはそっとカノンの顔を見た。
少し張り詰めた顔は、彼にとってのクリスマスがどんなものだったかを物語っていて。

やはり、と視線を外したサガの耳にアイオロスの声が飛び込んだ。

「これからは、皆で楽しいクリスマスを過ごすんだ。もちろん、カノンも含めてな」

唖然としたサガとカノンの顔を見比べてアイオロスはふっと笑った。

「……そうだな」

カノンも言葉は発せずとも、軽く微笑んでアイオロスに目配せをする。
それを見たアイオロスは安心したようににっこり笑い。

「ほら、そんなにゆっくり歩いていたら、夜が終わってしまうぞ!」

ふざけて駆け足をして二人を急かした彼にサガとカノンは大きな笑い声をあげるとその後ろを追いかけた。

「慌てて転ぶんじゃないぞ」
「大丈夫だって!ってうわっ!」
「言ったそばから転びそうになってるじゃないか!」

バランスを取って手を回すアイオロスを支えようとサガとカノンは同時に駆け出す。
三人のサンタクロースがたてる笑い声は澄んだ冬の空へと吸い込まれていった。


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