「ムウ様、どこに行っちゃったんだろう」

貴鬼は一人、テーブルの上に頬づえをついて、師匠の帰りを今か今かと待っていた。

「すぐに帰ってきますね、とか言ってたのにもう四十分だよ」

先ほど夕食を済ませたばかりなので、特に腹が減っているというわけではないが、やはりこの夜に一人でこうして待っているのは寂しいことこの上ない。

「そうだ。勉強でもして待ってよっと」

常日頃からムウに言われているように、貴鬼は机に向かおうと小さな掛け声を一つ、椅子から飛び降りて寝室へと向かう。

その時、寝室の中から小さな物音がした。
とたんに貴鬼の表情が警戒と心配、そしてささやかな恐怖へと変わっていく。

「今、何か音したよね?」

誰に問いかけるともなしに、貴鬼はそう呟いた。
しかし、それ以上は何も聞こえてこず、ただただ不安をあおるばかり。

「よ、よーし。おいら一人で確かめてやる!」

貴鬼は気合を入れるために数度腕を回すと、先ほど音が聞こえた寝室のドアをそっと開いた。



その十数分前、貴鬼の寝室の中ではとんでもないことが起こっていた。

互いに顔を見合わせるのは十六人のサンタクロース。
どれも声をあげてはいけないと思いながら、せめて意思を確かめるようにと自分の仲間以外の顔を見合わせる。

しばらくそうしていると、一人のサンタクロースがすっと手を開いた。
とたん、そこにいたサンタクロースの姿がふっと消える。

やがて、そのサンタクロースもすっと消え、寝室には再び静寂が訪れた。





「な……なぜこんなにもいるのだ!」

真っ先に声をあげたのは先ほど手を開いたサンタクロース。
しかし、顔を見回してみても、皆同じような扮装をしているので、誰が誰だかはっきりとはわからない。

「このちっこいのはだな!」

そう言って彼が指差したのは数多くのサンタクロースの中で一番小さなサンタクロース。
いきなり指を突きつけられたサンタクロースはびくっと体を震わせた後、悪役が仮面を取るようにすっと口を覆っていたヒゲをあごまで引き下げ、その顔を現した。

「よくわかったわね……。そういうあんたは?」
「ふっ。この声がわからんか。私だ」

そう言って同じようにヒゲを引き下げ、その顔をあらわにする。
あちこちから「眉毛が……」といささか失礼な囁き声が飛び交った。

「すると、その横にいらっしゃるのは老師ですね?」

シオンの横に座り込んでいたサンタクロースを一人のサンタクロースがヒゲをはずしながら指差す。

「ほほ。ようわかったのう。さすがはカミュじゃ」

自分と同じようにヒゲを外した男の顔は、皆が見慣れた水瓶座の男の顔。
そしてそう答えて顔を現したのは黒目黒髪の青年。

「ええい、まどろっこしい!皆扮装を解くのだ」

シオンが大きく声を張り上げるとそれぞれのサンタクロースがヒゲを外す。
一人の男がそっとヒゲを外した時にまたしても「眉毛が……」とどよめきが起こる。

「眉毛のことはどうでもよい!」

思わずシオンはそう叫んだ。よほどそれについて言われるのが嫌らしい。
しかし、ようやく落ち着いて皆の顔を見渡したシオンは一人だけ扮装を解いていないサンタクロースを見つけ、そっと白いつけ眉毛を潜ませた。

「お前は誰だ?」

その声にそこにいた全員が、そのサンタクロースに注目する。
頭の中で足りない人間を補うにも、ここに顔を出している者しか思い浮かばず、の隣りにいるサンタクロースが誰だかはわからない。

皆がその顔をよく見ようと目を凝らした時だった。

「ふふッ。私です」

サンタクロースがそっとヒゲを外した瞬間、皆の顔色がさっと変わる。
特にシオンは口を開けたまま、どんどん顔色が青くなっていくのがわかった。

「ア、アテナ!とんだご無礼を!」

シオンはそう言うが早いか、慌てて地面にひざまずく。
それに習って他の十三人もいっせいにひざまずき、彼女に向かって頭を垂れた。

「いいのですよ。わざと顔を隠していたんですもの」

そう言って沙織は彼らに立ち上がるよう告げると、の方を見てそっと笑った。

「アテナがこのような格好をされるとは……。!」
「は、はい!!」
「お前が無理を言ったのではあるまいな!?」

思い切り図星をさされてはあいまいに首を振った。
しかし、横にいた沙織はそっとシオンを制して言葉を続ける。

「確かに計画を持ちかけたのは彼女です。しかし、その計画に乗ったのは私の意思ですよ」
「そ……それなら構わないのですが」

少し張り詰めていた空気がやわらかくなり、誰かがほっとため息をついた。

「それよりも、皆私の宮に何か御用だったのでしょうか?」

ふいに白羊宮の主であるムウが尋ね、皆の顔を見渡した。

「俺は、貴鬼にプレゼントを持ってきたんだ」

真っ先にそう答えたのはミロ。すると周りの人間が皆、頷きながら他の人間の顔を見て意外そうな顔をする。

「ほら、クリスマスだしさ」
「日ごろから訓練に励み、がんばっているようだしな」
「こんなに人がいるのに、プレゼントあげるのがムウだけってのもかわいそうだしさ」
「俺の考えたプレゼントだったら絶対喜ぶと思うぜ!」

皆口々にそう騒ぎ出し、頭を抱えたシオンが大きく手を鳴らした。

「つまりは皆、目的は一つということだな」

皆が頷くのを確認してそれでは、と言葉を続ける。

「ではここは一つ、皆で協力しようではないか」

シオンのその言葉と共に十六人のサンタクロースは円陣になり、頭をつき合わせて何かを計画しだした。





「もう、何もないじゃないか」

暗い寝室の電気をつけて貴鬼は小さく呟いた。
物音を気にしてそっと中に入ってみたものの、見えるのはいつもと同じものばかりで特に変わったことはない。
少し恐怖を抱いていたことが恥ずかしいと思ったのか、貴鬼は数回頭をふると勉強机に向かう。

ムウから手渡された本を開き、さあ勉強を始めようとした時だった。

(貴鬼、聞こえますか?)
「ムウ様!?」

ふいに頭の中に聞こえた声に反射的に顔を上げた。
しかし、その声には答えず、ムウの声は一方的に貴鬼の頭の中へと響いた。

(用事が少し立て込んで帰るのが遅くなりそうなのです。先に寝てください)
「え?何時になるんですか?おいら、ちゃんと起きて――」
(いいのです。お前は今日も疲れているでしょう?必ず帰りますから心配せずに)

それだけ伝えられるとムウの声は聞こえなくなった。
何度呼びかけても答えてくれない師匠に、貴鬼は少し頬を膨らませたが、言われてみればと思ったとたん、大きなあくびが出てきた。

「しょうがないや。先に寝ておこう」

まだ少し不機嫌ではあるが、急に迫ってきた眠気には勝てない。
貴鬼は部屋の明かりを消すと、そっと月に照らされたベッドへともぐりこもうとした。

「あれ?」

そのまま布団の中に滑り込もうとした時、目の端に何かが映った。

「なんだこれ?」

顔を近づけてみると、それは赤い小さな靴下。しかも丁寧に刺しゅうがほどこされている。
手にとって見てみても自分のものだという覚えはなく、かと言ってムウが作ったものでもないようだ。
彼の師は家事全般をこなすとはいえ、刺しゅうなどのいわゆる飾り物をしているのを見たことはない。しかし、この靴下にはきちんと目が揃った刺しゅうが細かくほどこされている。

こんなことをしそうな人間を思い浮かべていると、ふと思い当たる人物がいた。しかし。

(だめだ。第一お姉ちゃん、針に糸が通せないもんなあ)

頭に思い浮かんだ人物の不器用さを思い出し、首を振る。
そこからしばらく考えていたが、どうにもこうにも思い当たる人間がいない。
そうこうしているうちに眠気が回ってきたのか、体が温かくなってきた。

(まあ、いいや。明日ムウ様に聞いてみよう)

貴鬼はそういう結論を出すと、そっと目を閉じた。





「どうやら寝付いたようだな」

低く小さな声でそうサガが呟いた。
足元から聞こえてくる音は、規則的に繰り返す呼吸の音のみ。

「ようやくサンタの出番ってわけか」

デスマスクが指を鳴らしてこのチャンスを待っていたとばかりに笑う。

「さあ、物音で目を覚まさないように気をつけて」

ムウが各自の顔を見て、そっと口に指を当てる。
それに頷いたサンタクロースたちは、彼が外した天井板から一人、また一人と物音を立てずにそっと降りていく。
ある程度下に人数が集まった時に、白い袋がいくつも下ろされ、最後にと沙織が下へと飛び降りて受け止められる。

最後にムウがテレキネシスでそっと天井板を閉じて、寝室の中に侵入を成功させたサンタクロースたちが貴鬼のベッド脇へと集まった。

「では各自、袋の中身を取り出すように」

シオンのその声に、皆、袋の中を確認して自分のプレゼントを見つけるとなるべく音が立たないように取り出した。
大きな荷物を抱えている者、小さな箱を手でそっと包み込んでいる者など姿はさまざまだが、恐らく皆がそれぞれ必死で考えたプレゼントなのだろうと思い、互いに顔を見てはそっと笑っている。中にはそれぞれのプレゼントを交換して重さをみている者もいる。

「準備はいいか?」
「ばっちりです!」

誰かがそう答えたのを皮ぎりに皆がそっと貴鬼の枕元の下、ちょうど赤い靴下がかけられた脚のところにプレゼントを置いていく。
崩れないように上にそっと乗せたり、大きい物は一番下にと、皆で調整をしてようやくプレゼントの山ができあった。

最後にムウとシオンが小山の上にプレゼントを置こうとした時だった。

「お主らのプレゼントはここじゃ」

童虎がそう言ってそっと貴鬼の頭の横を指差した。

「師匠たちからのプレゼントはここの方がいいじゃろて」

軽く目配せをした後、他の十三人の顔を見合わせると、誰もが賛成を示す。
それを見て安堵したのか、ムウとシオンはそっとプレゼントを寄せ合うと、眠っている貴鬼のすぐ横にそっと置いた。



「ようやく完了だな」
「後はそっとここを出て行くだけか」

大仕事を終えた顔でアルデバランとシュラがほっとため息をついた。

「さあ、こちらのドアから」

ムウが示したのは貴鬼の寝室のドア。さすがにもう一度天井に上るのも、と誰もが言った時に急遽考え出された案だった。

誰ともなしに貴鬼の顔をそっとうかがう。
しかし、その心配もなく彼は小さな寝息を立てたまま。

ほっとしたムウがドアを開いた時だった。


カランカラン。

鐘の音がどこからともなく聞こえた。
その瞬間、今まで安堵の表情を浮かべていた全員の顔に緊張が走る。

「おい!何の音だ?」

素早く反応したカノンがムウに詰め寄る。
それにムウはまるでしまったといった表情のまま、ごくりとつばを飲み込み。

「クリスマスリースを飾っていたのを忘れていました……」

そう答えた瞬間、室内はパニック状態になる。

「ちょっと!かなり大きい音だったわよ!」
「いったいどれほどの鐘をつけているんだ!」
「馬鹿!それより早くここからずらかれ!」

皆が慌ててドアへと殺到した時だった。


「……誰かいるの?」

寝ぼけた声が聞こえて、皆がさっと後ろを振り返る。
そこには先ほどまで寝息を立てていた貴鬼が目をこすりながらこちらを見ていた。

「おじさんたち、誰?」

大きな目でこちらを凝視して貴鬼がもう一度問いかける。
誰もが「もうだめだ!」と思った瞬間だった。

「ハハハ!メリークリスマス!」

一番貴鬼の近くにいたサンタクロースが太い声で手を広げ、そう叫んだ。

「メリークリスマス……。っておじさんは誰なの?」
「私かい?私の名前はサンタクロース!」

大きな身振りでそう貴鬼の目の前に指を突き出したサンタクロースは、また手を広げて大きな笑い声を上げた。

「貴鬼くん、君が日ごろからいい子にしてるのはよーく知ってるよ?だから今日、こうしてプレゼントを持ってきたんだ!」

そう言うと貴鬼の足元にあったプレゼントの山を示す。

「え?でもこんなにいっぱい……」
「いいんだよ!君がいい子にしてるのはよく知ってると言ったろう?なあみんな!」

振り返りざまに「笑え!」と口で指図されたのがよかったのか、後ろに控えていたサンタクロースたちがいっせいに大きな笑い声をたてた。

その姿を呆然と見守っていた貴鬼だったが、しだいにその目が輝きを帯びてきた。

「すごいやすごいや!サンタさん、ありがとう!!」
「どういたしまして!これからも先生の言うことをよく聞いて立派な聖闘士になるんだぞ!」
「はい!おいら、立派な聖闘士になれるようがんばります!」
「ようし!それを聞いて私も安心したよ。ではそろそろ帰るかな?」

そう言ってちらりと後ろを振り向くと、一人のサンタクロースが先ほどしたようにさっと手を広げた。
するとたちまちサンタクロースたちの姿は消え、部屋には静けさが戻ってきた。


「……夢じゃ、ないよね?」

貴鬼は自分の頬をつねってみたが、確かに痛みがあった。
それに足元と枕の横にあるプレゼント。それは手で触っても消えることなく。
少し落ち着いていた興奮がたちまちよみがえってくる。

「夢じゃないんだ!サンタさんは本当にいたんだ!」

ベッドの上で何度も飛び跳ねて、貴鬼はその喜びをあらわにした。
ベッドの上に置かれたプレゼントが貴鬼の動きにあわせて小さく跳ねる。

「早くムウ様返ってこないかな!」

自分が経験したこの不思議な出来事を少しでも早く彼に伝えたくて、貴鬼は待ち焦がれるように、明るい月に照らされた窓の外へと目をやった。





!名演技だったわよ!」
「お前、役者になれるぜ!」

聖域のはずれに現れた彼らは、口々に一番小さなサンタクロースに賞賛を送った。

「本当に助かりました」
「一時はどうなるかと思ったが、本当によかったな」

誰ともなくほっとため息をつき、計画の成功を喜びあう。
そんな中、シオンはどことなく残念そうな目をしていて。

「どうかしたかの?」

童虎が友人の顔を見ると、シオンは特に何でもないといった顔をしてみせたが、すぐに童虎はその表情の意味に気付き、にやりと笑った。

「そういえばお主はもう一つプレゼントを持っておったのう?」
「な……何を馬鹿なことを言っている!」
「いーや。確かにわしは見たぞ?」

二人のやり取りに皆が視線を集中させるとシオンはばつが悪そうに下を向いて。

「しょうがあるまい!ムウも貴鬼に付き合ってとっくに寝ておると思ったんだ!」

皆が一瞬目を点にした。その中、シオンはいたたまれなくなったように袋をさっと隠した。

「何で?何でムウが寝てるとよかったんだ?」

アイオリアが首をかしげながらそう言うと、隣りにいたアイオロスが笑い出した。

「教皇は、ムウの枕元にもプレゼントを置こうと思われたんでしょう!」
「そ、そうなのか、兄さん?」
「何考えてるんですか、あなたは!」

アイオリアがびっくりして兄の顔を見たのとムウが叫んだのは同時だった。

「シオン!私はもう二十歳ですよ?それなのにベッドにプレゼントなど!」
「まあまあ、ムウとそう言わんとシオンの話も聞いてやれ」

童虎が間に入り、ムウをなだめていると、ふいにサガが口を挟んだ。

「なぜだ?喜ばしいことではないか。私もカノンが眠ってからそうするつもりだったが?」
「俺もアイオリアの枕元に置いてやるつもりだったんだが」

聖域の長兄たちがそろえてそう口にしたのを彼らの弟たちは唖然と見つめて。
すると、その沈黙を破るかのように聞き覚えのある声が聞こえた。

「ホホ。わしなど、皆の枕元に置いて回る気でおったがのう」
「俺も」
「私もだ」

童虎の声につられるかのようにあちこちから賛同の声があがる。

「ちょっと待てお前たち!明日のパーティーはどうするつもりだったのだ?」

シオンが皆を制して言うと、アフロディーテが当然といった顔で答えた。

「もちろん、アテナへのプレゼントだけを持っていくつもりでしたが」

するとまたあちこちから賛同の声があがる。
その中、ミロが本当に残念そうな声をあげて。

「でも、が眠ってくれてなかったのが残念だったよな」
「え?何で私が?」

思わずそう聞き返したにミロは笑いかける。

「だってさ、が寝てる間にプレゼント置いたら絶対信じると思ったんだよな」
「で、明日の朝、『聞いてー!サンタさんは本当にいるんだよ!!』って大喜びで皆に言いふらしにいくと思ったんだよ、なあ?」
「お、俺は別にそんなをだまそうなんて……!」
「あんたたち……」

ミロとデスマスクの会話を黙って聞いていたが肩を震わせているのに気付いたのはじっと見守っていたシャカだった。

「君たちには制裁が必要なようだな」

そう一言言い終わるかどうかのうちに二人から叫び声があがる。

「いてえ!何しやがんだこのクソガキ!」
「何も俺まで殴ることないだろう!」

拳で思い切り殴られた二人が抗議の声をあげるが、はそ知らぬふり。
十四人のサンタクロースの笑い声が、寒さを増した空へと吸い込まれていった。



「さてと、そろそろ帰ろうか」

が大きくあくびをして背中を伸ばした。
火時計を見るとすでに午前2時すぎ。皆もどことなく疲れた顔をしている。

「そろそろ寝るか」
「そうだな。プレゼントは明日のパーティーの時でも構わんだろう」
「いや、もともとはパーティー用だろうが」
「サガ!絶対に俺の寝室には入るなよ!」
「とか言って、朝起きたらちゃっかりプレゼントが置いてあったりしてー」

皆でわいわい言いながら十二宮へと向かおうとしたその時だった。

「私はまだ用事があるので、ここで失礼しよう」

ふいにそう口にしたのはカミュだった。

「え?まだ何かあるの?」
「カミュのことだ。決まってるだろう?」

疑問を口にしたに、シュラが何かを言い含めるような声で教える。

「すまんな。急がなければシベリアの夜が明けてしまう!」

カミュはそれだけ言うと、さっときびすを返し、次の瞬間猛スピードで地平線へと向かって駆け出した。

「ちょっと、パーティーはどうするの!」
「それまでには帰ってくる!」

答えたカミュの声がこだまのように響き、やがて聞こえなくなる頃、カミュの姿も視界から消えた。

「まったく、弟子のことになると何も見えなくなるんだな」
「それがカミュらしいといえばそうなんだが」

皆が少しあきれた笑いを漏らしていると、ふいにシオンが童虎に向き直った。

「童虎。お前はよいのか?」
「はて、何が――と忘れておったわい!」

とぼけたように返事を返した瞬間、童虎は目を見開いた。
よく考えれば自分とカミュと同じ用事があったのだ。

「すまんな、シオン。恩に着る!」

そう言うが早いか、童虎も先ほどカミュが行った道を全速力で駆けていく。
途中、天秤宮から金色の光が飛び出したところを見るとどうやら黄金聖衣をまとって走っていったようだ。

「馬鹿か!黄金聖衣を私用で使うな!」
「まあ、よいではありませんか」

思わず叫んだシオンに沙織はそっと笑いかけて、「クリスマスなんだし」と付け足した。

「クリスマスって便利な言葉だなあ」

ふいにがそうぼやくと周りにいた数人がくすくすと笑いを漏らす。

「さて、じゃあ俺たちはの家にでも集合するか!」
「いいな、それ!」
「では、私の酒蔵に眠っている最高級のワインでも持っていこうかな」
「じゃあ、俺はビール!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」

いきなりそう言い出したデスマスクと同調しだした仲間たちには抗議したが誰も耳も貸さずにつまみの話までする始末。

「ちょっと聞いてったら!」

振り返らせようとデスマスクの腕を掴んだに彼はにやりと笑いかけてこう言った。


「いいだろう?クリスマスなんだからよ!」





Merry Christmas!


<THE END>