「むふふ。我ながら最高!」
真っ白なひげを顔中に貼り付けては一人、ほくそえんだ。
鏡の中に映っているのはクリスマスにはつきものの有名人。だが、明らかに『偽者』だと思われそうな顔立ちをしている。
それでもは、自分の変装に心酔していた。
「これで誰が見てもサンタクロース!」
大きな袋――中に入っているプレゼントは一つだが――を担ぎ、もう一度その姿を鏡に映してその変装の立派さに一人頷く。
「ねえ、。用事って何?」
後ろの扉が開くのを鏡ごしに見たは、そこからのぞいた顔に今まで以上に満足そうな顔をする。
しかし、鏡に映ったその人の顔はまるで何が起こっているのかわからないといった表情で。
「……ふふっ」
ドアから顔をのぞかせた沙織は目の前にあった光景のおかしさに耐えられず、ついに口から笑い声を漏らした。
「何、その格好?クリスマスのパレードにでも参加するつもりなの?」
「違うよ!」
「違うって、どう見たって怪しいサンタだわ!」
うずくまって笑い転げる沙織は気付かなかった。
その姿を見ているの顔が暗く笑っていることを。
そばに置いてあった紙袋はまだ膨らんでいて、そこを探ったはあるものをつかみ出して沙織の目の前に広げる。
「さ・お・り・ちゃーん」
「あー、おかしい!って、それは何……?」
「何って見たまんまだよ」
ニヤリと笑ったに沙織の顔がさっと青くなる。
「まさか、それを着ろっていうんじゃないでしょうね?」
「さーすがは沙織ちゃん。よくわかってんじゃない」
「プレゼントを持って来いといったのもそれのため?」
「そうよ。それ以外ないじゃない」
沙織の目の前に広げられたのは真っ赤なサンタクロースの衣装。
そしてそれと同じ格好ですでにサンタに変身済みのサンタクロース。
「嫌よ!私は絶対着ないわ!」
「えー?今日はクリスマスよ?」
「だからって何も仮装までしなくても!」
「サンタが嫌なら相棒の衣装もあるんだけど……」
抗議の声をあげる沙織をほったらかしにしてはもう一度紙袋の中を探る。
「まさか……」
「サンタの相棒って言ったらこれしかないでしょ!」
そう言って取り出したのはもちろんトナカイの衣装。大きくて真っ赤なピエロのような鼻もセットで取り出し、沙織の目の前に再び広げて最後の選択を迫る。
「さあ、どっちがいい?」
怪しく笑うサンタクロースの目の前、沙織はごくりとつばを飲み込むと、目の前に広げられた二つの衣装の一つをそっと手に取った――。
「それにしても、どうしてサンタの衣装なの?」
の目を覗き込んでそう尋ねた沙織にがちらりと視線を送る。
「だって貴鬼くんたらね、寂しいこというのよ」
「あら、なんて言ったの?」
「それがね、サンタクロースなんかいないんだって」
八歳の子供にしては大人びている彼なのだから、そう言うのも頷けることは頷けるのだが、やはりどこか寂しそうにそう言ったからには、本当は信じていたい気持ちもあるんだろう。
「だからね、私がサンタさんになるの」
少ないこづかいをはたいて買ったプレゼントを振り回しては笑う。
そういえばこの人は、祖父が亡くなってからというもの、毎年クリスマスの時分に屋敷に来てはサンタの格好をして自分の枕元にプレゼントを置いていてくれたのだ、と思い出して、沙織は少しだけ涙を浮かべそうになった。
そのプレゼントは人からしてみれば、本当にちゃちなものだったかもしれない。
それでも、自分は正体を知っていながらも、クリスマスの朝が待ち遠しかったのだ。
「っていっつもそうだわ」
「ん?何が?」
ふいに呟いた沙織には不思議そうな顔をしている。
しかし、それにそっと笑いかけるだけで沙織はふいに空を見上げた。
「本物のサンタクロースは今頃大忙しでしょうね」
「そうだね」
同じように空を見上げたが輝く星の間にそりを探すように目を走らせる。
「きっとプレゼントが欲しくてもくれる人のいない子供たちに配ってあげてるんだろうね」
そう呟いてからふざけるように沙織を見て。
「お手伝いしてるんだから、バイト代とか出ないかな?」
その言葉に一瞬唖然としてから沙織はクスクスと笑い声を上げた。
「お金は無理かもしれないけれど」そう言って一度呼吸を整えて沙織は悪戯っぽい目を向けて。「空に向かって叫んだら聞いてくれるかもしれないわよ」
「そっか!よーし!」
は肩に担いだ袋を背負い直すと、すっと息を吸い込んで。
「サンタさーん!私に素敵な彼氏をくださーい!」
ふいに大声でそう、空に向かって叫んだ。
その唐突な行動に驚きながらも沙織は口を大きくあけて笑い出した。
「あら、候補者ならこの十二宮にたくさんいるじゃない」
十四人の妙齢(?)の戦士たち、そして覚えている限りの神官や雑兵の顔を浮かべて沙織はそう返す。
「そういえば、ここの人たちってみんなシングルベルなんだなー」
「そうよ。もう選びたい放題よ」
そう言ってウインクした沙織を見て瞬間動きを止めただったが。
「サンタさーん。私に素敵な一般人の彼氏をくださーい!」
この聖域中にひしめく男性陣には少し失礼な願い事をもう一度空へと向かって叫んだ。
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