熱心な宣教師がいた。
「あなたは神を信じますか?」
そう純粋な瞳で聞かれると、
さほど信仰心のない人間でも「はい」と答えずにはいられない。
それほど彼の瞳は神への信仰心に満ち溢れていた。
各国を回りアテネに到着した彼は、
シンタグマ駅の入り口で道行く人に声をかけた。
「あなたは神を信じますか?」
「あなたは神を信じますか?」
「あなたは神を信じますか?」
声が枯れてきても構わず、彼は道行く人に問いかけた。
「もし、そこのお兄さん」
「はて何か御用かな?」
背の高い長髪の男に声をかけた老人は、お決まりの文句を投げかけた。
「あなたは神を信じますか?」
「もちろん。神は私の守るべき存在です」
「それは立派だ。あなたのお名前はなんと?」
「サガ、と申します」
「サガさんですか。立派なお名前ですね」
深く頭を下げて微笑んだ男に老人も顔をほころばせ。
「どちらにお住まいですか?」
住まいは信仰心溢れるしっかりした土地なのだろうと、
頭の中でギリシャの地図を思い浮かべながら問いかけた彼に男はにっこり笑って答えた。
「聖域です」
「もし、そこのお兄さん」
「あ?俺に用か?」
銀髪の男に声をかけた老人は、お決まりの文句を投げかけた。
「あなたは神を信じますか?」
「一応な。神が存在していることは知っている」
「なるほど。何か救われることがあったのですね。え〜と…」
「デスマスク、って呼んでくれ」
「デスマスクさんですか。少々不吉なお名前ですね」
その言葉に少し顔をしかめた男に老人は取り繕うように。
「どちらにお住まいですか?」
住まいは信仰心溢れるしっかりした土地なのだろうと、
頭の中でギリシャの地図を思い浮かべながら問いかけた彼に男はぶっきらぼうに答えた。
「聖域だよ」
「もし、そこのお嬢さん」
「はい、何でしょう?」
東洋人の女に声をかけた老人は、お決まりの文句を投げかけた。
「あなたは神を信じますか?」
「信じてます。崇めているわけではありませんけどね」
「それでも十分です。東洋の方のようですが名はなんと?」
「って言います」
「さんですか。美しい響きですね」
笑って礼をのべた女に老人は少々見とれながら。
「どちらにお住まいですか?」
住まいは信仰心溢れるしっかりした土地なのだろうと、
頭の中でギリシャの地図を思い浮かべながら問いかけた彼に女は当然と言った顔で答えた。
「聖域ですよ」
泊まった宿で聖域の存在を知った彼は、
翌日、新たな土地へと宣教の旅に出た。
+++一言++++++++++
『神様』は唯一絶対の存在ではないということ。
(03/08/29 作成)