長い戦いの果て、ついに地上と冥界は条件付で和解することとなった。
聖域側の要求はハーデスの肉体の処分。
二度と彼が地上に攻め込むことができぬよう、その肉体を消せ、ということだ。
だが、肉体はハーデスが最も愛するもの。
おいそれと「はい、そうですか」と言うわけにもいかない。
そこで困ったハーデス。こんな条件を出してきた。
「聖域にいる、二十歳以上の東洋人の乙女を所望する」
それは暗にを寄越せ、と言っているようなもの。
なぜなら、聖域の中で、二十歳以上の東洋人といえばしかいないのだ。
沙織は悩んだ。いかに地上の平和のためとはいえ、
一般人である彼女をこんなことに巻き込むことはできない。
悩んで、悩んで。
仕方なく、沙織はにこの話を切り出した。
ハーデスは悪いようにはしない、と言っている。
しかし、自分にはどうしてもこの言葉に裏があるように思えてならない、と。
の中ですでに答えは決まっていた。
だが、それを言えば沙織は悲しむだろう。だから、なかなか言い出せなかった。
しかし、沙織が苦悩するさまを黙って見ていることもできない。
「ごめんね」
どっちみちこう答えるしかないのだ。
覚悟を決めては沙織へと答えを告げた。
かくして、地上には平和が訪れた――ほんの二百年余の短い平和が。
地上と冥界は結局、和解することなどできなかった。
なぜなら、がハーデスの言う条件を満たしていなかったから。
ハーデスは知っていたのだ。
聖域には以外に二十歳を超えた東洋人がいないことを。
そして彼女が、もはや乙女ではないことを。
+++一言++++++++++
乙女=処女ということで。
(05/01/28 作成)